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何やら仲間が敵とやり合っている。敵方はマクンヌトゥバ語を話していないので、何と答えているのかは理解不能だ。仲間たちとの緊迫した「会話」が実際にかみ合った会話であるかも疑わしい。どちらにせよ、落ち着いた対応でないのは明らかだった。これでは自分の呼びかけが誰にも届かなくて当然だ。
――埋もれている場合じゃない!
脆そうな箇所を求めて両手で破片を探った。集中力が途切れ、適当に殴った。押した。蹴った。
ふいに、ボコッ、と手応えがあった。崩れた一点を肘や膝で殴り、ようやっと出ることが叶った。
(煤(すす)と血の臭いだ)
明るさに目が慣れるまでに繰り返し瞬く。
至るところで戦闘が勃発しているが、敵の数の方が二倍以上多い。仲間の戦士たちは防戦に徹している。
敵の発する舌打ちや言葉のイントネーションの雰囲気は、過去に聞いたンドワンゲレ語と一致している。そして比較的明るい肌色、身体中に通る太い棒状や輪状のピアス――北の部族である。
人魚たちが言った通り、トンネルは本当に北へと通じていたのだ。
どうやら意識が無かった間にこの空間は占領されてしまったらしい。自分たちが持って来たたったの二本の松明なんて必要ないくらい、壁や床に設置された数々の燭台からも炎が上がっている。
最初に受けた印象よりもこの場所は奥行きがあったようだ。死体の並べられていた向こうには五段ほどのちょっとした上り階段に囲まれた盛り上がったエリアがあった。一辺約五メートルの正方形、その上には長い卓が置かれている。中心の四角い窪みは黒い。まるで底なし穴の如く、黒い。
(って、あれは!)
合点が行った。
祭壇の間だ。滝神への生贄を捧げる儀式と同様に、神官の役割を担った人間が内蔵を取り出して穴に落とすのだろう。
ただし、捧げられるのは滝神(タキガミ)さまの御座(おわ)す郷(くに)からかどわかされた集落民。自己中心的かもしれないが、どこの誰とも知れない自殺者が捧げられるのとは意味合いが違う。
拓真は視界の中を余すところなく凝視した。
北の部族たちが数人ずつで死体を運び去ろうとしているようだった。そこに、滝クニの仲間が追いすがる。
祭壇の上の卓の傍に人影が揺れている。
「させない!」
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