33.moralization

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 ここから祭壇までに最も邪魔の少ない道を見定めて、拓真は疾走し出した。そこら中で繰り広げられている乱闘の隙間を三回ほど縫った途端、風切り音が耳朶を打った。  離れた場所から誰かが矢を放ったのだ。矢は耳を掠っただけで、後ろの壁に突き刺さった。反射的に硬直した。背後からはガラガラと嫌な音がする。 「いけません!」  強く突き飛ばされた。  地面に肩を打った衝撃で我に返る。二度目に破片に埋まらずに済んだ恩人を探す。  庇ってくれた相手は代わりに埋もれていた。這い寄って掘り出すと、彼の出血の量に驚愕した。  呼吸も脈拍も無い。打ち所が悪かったのか、先刻の拓真と違って致命傷を負ったようだ。  頬に母斑のある若者である。 「ちょ、嘘……まだ名前を憶えてなかったのに……君の家族にどうやって謝れば……」  悔しいのに涙が出てこなかった。  皮膚を突き破らん勢いで両の拳を握りしめる。すぐ傍では敵が数人、じりじりと迫っているのをぼんやりと認識した。意気消沈しているあまり、動く気になれなかった。 「ルング=ワ! その者の名はルング=ワだ。どうか憶えてやってくれ。家族には、立派に戦士の務めを果たしたと、お前が直に伝えるんだ」  そんな時、頼もしい気配が通り過ぎた。 「バロー!? じゃあまさかそっちの道もここに繋がってたの」 「どうやらそのようだな。遅れてすまなかった」  集落最強の戦士・アレバロロは、無駄口を叩くことなく次々と敵を薙ぎ倒していった。  アァリージャやキチャンガチュイ、心強い味方が次々と奥の通路から湧き出る。それでも数での不利は変わらない。 「やめろおおおおおお」  ナマユニの悲痛な叫びが周りの喧噪から飛び出て響いた。  悲鳴のした方へ素早く振り返る。  暴れるナマユニは三人もの敵によって取り押さえられている。彼が必死に階段を上ろうと足を踏み出し、腕を伸ばす先には―― 「――その子は!」  走り出した。間に合わないと、心のどこかでは知っていながらも。  走り出さずにはいられなかった。  長方形の卓に、小さな身体が横たわっている。  すぐ傍で揺らめく人影が、腕を振り上げた。  振り上げた腕の先には鋭利そうな刃物が握られている。 「まだ、生きてるんだよ……!」  拓真の叫びもやはり、人影には届かない。  刃物は少女の胸を突き破った。
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