6人が本棚に入れています
本棚に追加
ここから祭壇までに最も邪魔の少ない道を見定めて、拓真は疾走し出した。そこら中で繰り広げられている乱闘の隙間を三回ほど縫った途端、風切り音が耳朶を打った。
離れた場所から誰かが矢を放ったのだ。矢は耳を掠っただけで、後ろの壁に突き刺さった。反射的に硬直した。背後からはガラガラと嫌な音がする。
「いけません!」
強く突き飛ばされた。
地面に肩を打った衝撃で我に返る。二度目に破片に埋まらずに済んだ恩人を探す。
庇ってくれた相手は代わりに埋もれていた。這い寄って掘り出すと、彼の出血の量に驚愕した。
呼吸も脈拍も無い。打ち所が悪かったのか、先刻の拓真と違って致命傷を負ったようだ。
頬に母斑のある若者である。
「ちょ、嘘……まだ名前を憶えてなかったのに……君の家族にどうやって謝れば……」
悔しいのに涙が出てこなかった。
皮膚を突き破らん勢いで両の拳を握りしめる。すぐ傍では敵が数人、じりじりと迫っているのをぼんやりと認識した。意気消沈しているあまり、動く気になれなかった。
「ルング=ワ! その者の名はルング=ワだ。どうか憶えてやってくれ。家族には、立派に戦士の務めを果たしたと、お前が直に伝えるんだ」
そんな時、頼もしい気配が通り過ぎた。
「バロー!? じゃあまさかそっちの道もここに繋がってたの」
「どうやらそのようだな。遅れてすまなかった」
集落最強の戦士・アレバロロは、無駄口を叩くことなく次々と敵を薙ぎ倒していった。
アァリージャやキチャンガチュイ、心強い味方が次々と奥の通路から湧き出る。それでも数での不利は変わらない。
「やめろおおおおおお」
ナマユニの悲痛な叫びが周りの喧噪から飛び出て響いた。
悲鳴のした方へ素早く振り返る。
暴れるナマユニは三人もの敵によって取り押さえられている。彼が必死に階段を上ろうと足を踏み出し、腕を伸ばす先には――
「――その子は!」
走り出した。間に合わないと、心のどこかでは知っていながらも。
走り出さずにはいられなかった。
長方形の卓に、小さな身体が横たわっている。
すぐ傍で揺らめく人影が、腕を振り上げた。
振り上げた腕の先には鋭利そうな刃物が握られている。
「まだ、生きてるんだよ……!」
拓真の叫びもやはり、人影には届かない。
刃物は少女の胸を突き破った。
最初のコメントを投稿しよう!