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この先の一生を思えば、フラッシュバック現象や、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という単語が適切であろう。或いは監察医であったなら、仕事と割り切れただろうか。所詮自分には割り切れなかった。
(いや、結局やり遂げたからには十分に割り切れていたのか……?)
かと言ってこれでもしも現代社会に復帰することがあっても、他の学生連中と何事も無かったかのようにまた仲良く勉学に励めるだろうか。人体とこれからどう向き合っていけばいいのか、想像が付かない。
――きっと疲れているだけだ。
(後日また考えれば、何かが変わるかな)
足の裏がガンガンと音を立てて床を打っていることで、貧乏ゆすりをしていたのだと自覚した。
(生贄システムを止めさせる方法に至ればいいんだ。そうだ、ふりだしに戻ればいい)
思考を切り替えよう。少しでいいから、前に進もう。グダグダしていても、誰の役には立たない。
傍らでぐったりと気を失っているユマロンガを視界の端で捉えて、益々己を奮い立たせるべきだと決心した。こんな普通の女子が生活習慣の「安全圏」から大幅に踏み出して手を貸してくれたのだ。そして、幼少の頃から異常を普通としなければならなかった巫女姫だって頑張っているのだ。いつまでも情けなく萎れてはいられない。
(神力に頼らずに生きればいいだけだ)
これまで見てきた集落の様子を思い出し、効率を良くする為にどういう変更が必要であり可能であるのか、脳内で計算する。
(あれをああして。そうだ、きっとなんとかなる)
絡みつくような思考だった。それは、病みかけていた精神を立て直すに必要なプロセスでもあった。
だと言うのに、水を差す存在があった。
暗くなっていた祭壇の左右から突如として火柱が上がり、浅い皿の水が急速に変容する。
「なんだよ……俺は呼んでないぜ」
「青年よ、大儀であった。が、ちと面倒なことになった」
滝神は久也の文句を無視して話を進めた。硬い表情や腕を組んだ姿勢は真剣そのものだ。
「スグルとやらは、どうやら企みを完遂できたようじゃ」
「……――なんだって」
驚きと焦りを感じても、それを返事に反映させるだけの気力が無かった。自分でも信じられないくらいに平坦な声を出してしまう。
「濃度勾配を逆流する特異点が発生した」
「えーと……こっちから地球に行けるポイントって意味でいいんだな」
訊き返した。
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