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「そうじゃ。北の精霊たちが摂理に干渉する手段は、わらわのそれとは大きな違いがある。わらわは代償の代わりに神力を膨張させ、民の願望を叶える。巫女姫はその身に神力を集めてわらわの意思に沿った働きができる。ところが精霊は代償を貰う代わりに、触媒者に神力を与えて宿す」
「よくわからないけど……その話は今、必要か…………?」
「済まぬ。蛇足じゃったな。要するに、つまり奴らの神官は己の意のままに神力を使える、ということじゃ。あやつは帰郷こそが願いであり、うまく民の協力を得てそれに成功した」
なにやら聞けば聞くほど疲れる話だった。
「帰ってくれたなら――アイツがこの地を去ったってんなら、それでいいじゃないか。やっと平穏に戻れる」
「ところがそうも行かぬ。特異点は開いたままじゃ。誤って触れても向こう側に飛ばされるし――」
「……おい、危ねーな」
「北の精霊たちはわらわよりもずっと気が短い。儀式では小出しせずに一気に力を与えて、終わる。いかに多くの生贄を用いても神力の効き目はせいぜい数日じゃ。やがて特異点が閉じる時、それまでの反動で荒波のように向こう側の人間が雪崩れ込んで来るぞ。おそらく、生きた者も巻き込まれよう」
それを聞いた途端、目の前が真っ赤になった。
思わず壁を殴った。
「あの野郎は一体どんだけ問題を起こせば気が済むんだよ!」
「青年。そう思うなら、終わらせて見せよ。やれるのはそなたか対の者か、どちらかでしかない。元々向こうとの結びつきが深い者でなければ」
「…………聞くだけ聞いてやるから、言ってみろ」
上目づかいに睨んだ。
滝の神はこちらの挑戦的な眼差しや物言いに対して、満足したように微笑んだ。
「異邦人たちよ、そなたらの胆力に感謝する」
*
同刻、小早川拓真は知らずに相方と同じ姿勢で蹲っていた。
追悼の涙が膝やふくらはぎを伝い滴る。
敵の制圧もなんとか終わり、生き残った者たちはアレバロロの指揮の下、怪我人の処置や残党を縛り上げたりと忙しなく動いていた。
それが全て片付くと、皆は感情に身を任せた。
「ンヤカ=スウィ、しっかりしろ」
「よい……。時期が、来た。我は……大地に……かえ……」
「待て! 戻らねば、そなたの母が嘆くぞ!」
「よいのだ、ムヲンゴゾ。そなたこそ、かえって、姉君に……元気な姿を見せてやれ」
「当然だ! お前も来るんだ!」
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