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「もう、よい……。滝神さまのもとに、かえる……」
それきり、その会話は続かなくなった。ンヤカ=スウィのような生き残ったと一度は思われた人間の中には、あまりもの致命傷を負って最期の瞬間から逃れられない者も居た。見送った者の泣き声が周囲の壁に反響する。
同胞として傍に立ち、別れを惜しみたい気持ちはあった。しかし拓真は、白い亀裂の前から動くことができなかった。
これがいつ消えるのかわからないと思うと、途方に暮れたままどんどん時間だけが過ぎた。
声をかけてくる者は居なかった。
このまま忘れ去られて置いて行かれてもいい――などと理にかなわないことを考え出している――
「おい! タクマ!」
生気に溢れるうら若い女性の声が間近から降りかかり、ハッとなる。顔を上げると、見慣れた美しい黒い双眸と目が合った。
どうしてか、それほど暗くないこの洞窟の中で滝神の巫女姫の肌は一際輝いているように見えた。錯覚だろうか。
「サリー? なんで」
「なんでも何も、異変を感じたから後を追ったんだ。とりあえず、まだ間に合う者には神力を施した。原因は不明だが、滝神さまからとんでもない量の神力を送り込まれたからな。神力でも救えない者は居たが……」
「へ、え」
彼女の話に興味がないわけではないのに、気の利いた相槌が出てこない。
「お前は一体どうしたんだ。具合はどうだ?」
言いながらも彼女はそっと神力を流し込んでくる。活気が血の中を巡回していくようだった。
それなのに、心は晴れない。
「どうしたって言うか、ね……」
英が通り去った裂け目に視線をやると、サリエラートゥもそれに気付いた。近付き、手を伸ばそうとしている。
「何だこれは――」
「さわるなッ!」
彼女の行動に遅れて気付いて、怒鳴った。
少女の手がサッと引っ込んだ。皆の注目が祭壇の上に集まり、やがて巫女姫はおそるおそる口を開けた。
「これは、何だ。お前は知っているのか」
「少なくともこの世界を去る出口だってことはわかってるよ」
「出口……?」
まだ何か言いたそうだった巫女姫は、突然前のめりに倒れた。
「サリー!」
倒れ込む身体をなんとか支えて、顔を覗き込んだ。観衆からもどよめきが上がる。
「平気……。滝神さまから、お前に伝言だそうだ」
「え? おれに? どゆこと」
「私にもよくわからん。ヒサヤとはもう話がついてるらしい」
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