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「当たり前だ。俺だって初めてだぜ。大体あれは、頼まれたというよりは命令されたって感じだろ」
「う?ん、まあ神サマからしてみれば、人間にああいう命令するのなんてどうってこと無いんだろうけど。された方は結構こたえるね」
戦闘をした結果で相手を殺してしまうのとは違う。
初めから殺すつもりで、対象の息の根が確かに止まるまで手を休めることなく、追い縋らなければならない。
想像してみた。思念体となった今では、その想像がまるで現在の出来事のように鮮明に感じられる。皮膚があれば、鳥肌が立っていたはずだ。
「サリーは連れ帰りさえすれば自分が始末してもいいって言ってたよ」
「それはダメだ。北の部族との事態の収束がこじれるかもしれない。異世界人の俺たちがやる方が、わだかまりも軽いはずだ」
「うん……」
「その時にならないと何とも言えないが、俺はやれると思う。お前が無理だってんなら」
会っていなかった時間の間に何かただならぬ出来事があったのか、久也の中では確固たる意志が育っていたようだ。詳しく聞いている暇は無い。
取り残されたと感じている暇も無い。
「ううん。めちゃくちゃ嫌だけど、無理じゃないよ」
良くも悪くも、あの面倒見の良かった青年に遊んでもらった昔の思い出は一生残る。それだけで十分な気がしていた。
たとえ血生臭い方の記憶にうなされる未来が今後も続くとしても。祭壇の上の――痙攣していた少女の手足や噴出した血液も、英のあの狂気じみた笑い方も、記憶に刻まれている。
何であっても、決着はつけねばなるまい。
覚悟を決めるしかない。
「……そうか」
久也はそれ以上その話題を引っ張らなかった。
「で、どこから捜す?」
「んー、手始めに藍谷家とかどう?」
「賛成」
短いやり取りの直後、ギュンと見えない引力に引っ張られる感覚があった。
*
視界が晴れた。
途端に、浮遊感のような感覚が芽生えた。鳥の目線で人間界を見下ろしているようだった。
薄い雲が出ているだけの、ほぼ晴れ渡った空。地球に戻れた途端に、焦点が合わない程度の視覚が戻った。隣の久也の輪郭も、薄ぼんやりと見える。
(幽霊ってこんな気分なのかな)
妙な空間から一転して、そこはもう日本だった。見事すぎる移動手段である。とはいえこのやり方の精度はいまひとつなのか、もう少し移動が必要だった。
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