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だって、と拓真は存在しない口を尖らせた。
「結局囚われてた人たちを救えなかったし。仲間の戦士もたくさん死んじゃったし……」
「それは何もお前一人の責任じゃない」
何故だかため息が聴こえた気がした。心の声以外を聴き取る聴覚など無いはずなのに。
「もういいだろ。俺たちは結構頑張った」
「それは、そうだけど」
「ここまで来て、犠牲の上でしか叶えられない願いなら、俺は願いの方を諦める。アイツと同じ轍を踏むわけには行かない。故郷に帰れなくても、もういい」
この発言にハッとした。
体の弱い妹を含めた母子家庭をやむなく置いて行った久也が諦めを口にするのが、どれほど重いことかは当然知っている。
「なんだかんだで愛着は沸いてる。あの世界で骨を埋めるのも、悪くなさそうだ」
「おれだって、愛着あるよ。皆を受け入れたいし、受け入れて欲しいもん」
「だったら神サマの依頼を果たすとこから始めようぜ。そんでさっさと日常ってヤツを取り戻そう」
うん、と力一杯答えた。故郷への未練を、迷いを、今度こそ断ち切るつもりで。
二度と、逃げたいなんて考えてなるものか。
そして次の瞬間ピリッとした悪寒に撫でられた。雷に打たれた経験は無いが、そんな表現が似ていると直感した。
「波動! 感じたよ。これ、きっと英兄ちゃんだ。なんかすんごく怒ってるっぽい」
強い感情が信号みたく位置情報を発信している。いや、むしろ引きずられるようだとも言う。
「この気配を追えばたどり着けそう!」
「んな抽象的な……。まあいい、お前に任せる。俺は着いて行くだけだ」
「オッケー、行くよ!」
これからやらねばならないことが心に引っかかったが、緊張感だけを残して躊躇は捨てた。
――二人の精神体は、浮遊感も振り落すほどの全速力で空間を駆け抜けた。
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