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「だからマクンヌトゥバだと言っている。聴こえなかったのか?」
「……言語の名前から既に聴き取れないとか前途多難すぎるぜ」
「そこは気合でどうにかしろとしか言えん」
「あははー。まあなんとかなるよきっと」
呑気に笑っている内に、台地の前に着いた。台地の上にも麓にも民家が疎らに建っている。
知らず拓真は目を輝かせていた。
――家がかわいい!
第一印象がそれだった。煉瓦か石みたいな素材で構築された家もあれば、枝みたいなもので一部建てられているのもある。一軒一軒が個性溢れる外観をしていて、全く同じ家は二つとないように見える。
そんな集落から、人影が見えないのに視線を感じるのは何故か。これは噂に聞く、「ムラに新入りが来たぞ」状態だろうか。誰もが好奇心一杯に窓からじっと様子を伺うのに、警戒してすぐには挨拶に出て来ないという。
「まず伝えねばならないが、現在ではこの集落にお前たちの寝泊りする宿のスペースが無い」
まだうっとりと台地を眺め回していた拓真は、耳朶に届いたシビアな声で我に返った。
「ええええ!? 野宿しろってこと? それかハンモック?」
「まさか。今は乾季で夜が冷える。蛇も出るから野宿は勧められない」
「俺は蚊の方が心配だ」
久也が横合いから口を挟んだ。
「蚊? 確かにかゆいけど」
「じゃなくて、異世界でもマラリアって伝染するのかって」
例によって険しい目付きで久也が緑生い茂る台地を睨んでいる。拓真は死角から突かれた気分になった。
「さっすが医学部、着眼点が違うね!」
「笑い事じゃないから。マジで。生贄になる前に病で逝きかねない」
久也はげっそりと青い顔をしている。拓真には蚊から伝染しうる病気群がどれほど深刻なのか、これといって実感が沸かない。そんな恐ろしいものは現代を生きる先進国の人間とは無縁だからだ。が、親友が主張するからには大問題なのだろう。
「何を言い合っているのかわからんが、蚊対策なら後でよく効く代物を持ってきてやる。それより、宿」
「あ、うん」
二人は巫女姫の方を向く。彼女は集落の右端に進み、土手道を上って数分後、一同は空いた土地の前に立っていた。さまざまな物が仕分けられ、山になって積まれている。
「それで――」サリエラートゥはしなやかな腕を伸ばし、指差した。「そこに磨かれた石が積み上げられているだろう」
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