37.閉ざされる未来

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 異臭に包まれ、血にまみれ、極めつけには超人みたいに光っているこの目の前の男は、何者なのか。  認識が固まれば固まるほど、拒絶も強まる。 「ありえない! ありえないわ!」  気が付けば侵入者に襲いかかっていた。横蹴りに、半月蹴り。掌底に後ろ回し蹴りと、容赦ない攻撃を次々繰り出す。  英もどきはそれらを全て、素早い身のこなしで軽々かわした。 「ご挨拶だな! おかえりって素直に言えないのかな、この妹は!」 「そういえば『殴っといて』って頼まれたもんでね!」  あの幻聴の意味が、今ならわかりそうな気がした。  香の知る理屈で説明できるレベルをとうに越しているが、きっと何もかもが繋がっていたのだ。それなのに、どうしても素直に「生きていたのね」と泣いて喜べない。  ――だって、もう居ないんだってやっと割り切ろうと頑張ってたのに――。 「ぐっ」  腹部に激痛が走った。反射的にその部位を腕で押さえたのも束の間、気が付けば足が床から浮いていた。気管が圧迫され、無意識に喘ぎ声を出した。  首を絞められている。  実の兄に、首を絞められている――!  手足をばたつかせた。蹴るか殴るか噛むか、何でもいいから、何かしないと。この力、尋常じゃない。  焦る。ひたすら焦る。視界は過度に潤ってぼやけていく。 (も、だめ。もう意識が)  そう思った途端、尻餅付いた。 (え?)  咳き込み、目を擦る。眼前ではつい今まで自分を殺そうとしていた男が別の誰かと揉み合っていた。第三者の登場で絞め殺されるのを免れたのだ。  が、廊下から誰かが来る気配は無かったはず。それに、玄関の鍵はちゃんとかけ直したのに。  どこから現れた――?  ぱちり、ぱちり。緩慢とした動きで目を瞬(しばた)かせる。  そこには信じられない光景があった。もう会えないと思っていた人物がそこに、二人揃って殴り合っていた。 「拓真!? 何で!?」 「ごめん、香ちゃん! マジごめん! 説明してる暇ゼロ! 五分が限界なんだ! 加勢して!」 「はああ!?」  と、返しながらも、香は跳ね上がった。二人がかりでなら或いは動きを止められるのではないか――などと思ったのも、甘かった。
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