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誰もが吐息さえも飲み込んで、十七かそこらの少女に注目している。
彼女の足元では――裁かれる人間の最たる例が、静かに言葉を紡いでいた。
「あの者たちに罪があるなら、紛れも無くそれは私の罪だ。私がそそのかしたりしなければ、大事(おおごと)になることなく、通常レベルの諍いで済んでいたはずだ。北の地は実りが少なく、苛酷だ。領土を拡大したいと願うのは仕方が無い。だから、民には――」
「ここに来て我々のお情けを乞うのか?」
滝神の巫女姫サリエラートゥが食い込み気味に応じた。首を傾けた際に、ハイポニーテールに束ねられた長い黒髪が揺れた。
相手を見下ろし、唾を吐き捨てかねないほどの嫌悪感を丸出しにしている。
「貴様も他の連中も等しく悪だ!」
少女の剣幕に対し、地に横たわる男が鼻で笑った。
「……ああ、違ったな。罪の有無を論じたいわけではない」
「なら何だと言うんだ」
「命を有益に使え――と言っている」
「どういうことだか、話が見えない」
サリエラートゥはにべもなく言ったが、久也にはなんとなくわかる気がした。
「我々は貴様らの同胞の命を奪った。普通に考えればその落とし前をつけるには命を奪い返すのが最適であろう」
「当然そうなる」
「しかし民は労働力だ。人材は、どんな形であっても貴重だ」
「何を言っているんだ? 敵だった人間を使うなど、できるはずがない。まず信用できない。仲間を殺されたくないがゆえの詭弁にしか聴こえないぞ」
――そうかもしれない。けれども、そうでもないのではないか。
英の言い分には実は久也は賛同していた。
この男は、弁明の余地の無い大きな過ちを犯した。だが責任逃れをしようとしない潔さは評価したい。心願であった帰郷を僅かな時間でも果たせて、気が済んだだけなのかもしれないが。
冷静で理性的な態度から察するに、己のしたことの重さを受け止めている。その上で、情が沸いたのかは知れないが、巻き込んだ人間の面倒を最後まで見ようとしている。
まだ話し合う意味があるのだと感じた。だからこそ自分たちだって、今だけでも冷静であるべきなのだ。境目を越えて滝神さまの御座す郷に戻った時、拓真とそう決めたのだった。
「詭弁でも構わないさ。頼む、殺さないでやってくれ」
「そんな都合の良い話――」
「いいよ」
「おい、タクマ。何を考えている」
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