38.拓かれる未来

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 サリエラートゥの背後に控えていた小早川拓真が口を挟んだことに、戦士アレバロロが不審そうに顔を上げた。巫女姫も、ぎゅっと眉根を寄せて振り返った。 「サリー、あのね」  無感動に聴こえるほど静かに、拓真は口火を切った。俯き加減だったところ、顔を上げてグリーンヘーゼルの瞳を巫女姫に向けた。 「この件の処理と今後のことについて、とりあえずは任せてもらえないかな」  その言葉に巫女姫は目に見えて驚いた。 「確かに滝神さまは、お前たちと私に采配をとれと仰せられたが……何をする気だ? 同郷か、確か知り合いなのだったな。どうこうするのが心苦しくなったとか?」 「んー、ちょっと違うかな。神さまに依頼されたんだし、英兄ちゃんはちゃんと息の根を止める。でも他の人たちは……」  拓真は拘束されたままの他の北の部族の戦士たちを見渡した。 「別に許さなくてもいいよ。ただ、感情的になるあまり、双方の犠牲を無駄にすることは無いと思う」  すうっと一呼吸してから、続ける。 「おれらの仲間も北の人たちもどっちも死んだよ。それが何の進歩にも繋がらないんだったら、ただの悲劇になる。たとえこじつけでも、残された人たちが意味を見つけなきゃダメだ。血を流すってのは、そういうことなんだと思う……ううん、思いたい」 「進歩? 意味? お前の言っていることは、私にはよくわからない。人死と進歩にどういう関連がある?」 「それは……」  拓真が言い淀んだ。歴史という概念、過ちからは学ぶべきだという教訓。それらは一息に説明できるようなものではないからだ。  なんとも言えない沈黙の中、一人の青年が前に歩み出た。 「どうした、イデトゥンジ」 「姫さま……彼らに考えがあるなら、私は信じたい」  イデトゥンジは確か、生き残った戦士の一人である。ひどく憔悴している様子だった。  充満する「死」に疲れているように見えた。 「いつも何を言っているのかよくわからないが、それでも私は白人(バムンデレ)たちが好きだ。我々の知らないことを知っている。きっと我らの悪いようにはしないと信じています」  彼の言い分に周りの何人かは迷いや反感を見せたが、半数以上は賛同しているようだった。  ――嬉しいことを言ってくれる。  同じように思ったのか、拓真が湿った目でこちらを見上げてきた。
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