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(二人にも同じようにこの郷を美しいと感じ、愛して欲しいと願うのは、私の傲慢だ)
傲慢だとわかっていながらもどんどん期待が膨らんでしまったのは、彼らがあまりにも自然に溶け込んでくれたからだろうか。その誠意に応える為にはどうすればいいのだろうと、悩まずにはいられなかった。
こればかりは一人で悶々としていても仕方が無い。本人たちに訊くのが最短の道だ。と言っても、さっきまで近くに居たタクマは少し下流の岸の方で、ユマロンガに付いている。
ヒサヤの方は依然として目が覚めない。サリエラートゥは岸に上がり、頭から爪先まで濡らしたまま、仰向けの青年の傍まで這い寄った。やたらと白い頬に指一本、触れてみる。反応が無いのを見ると、今度はつねってみたりする。
(生き物じゃないみたいだ)
再度不安がこみ上がる。タクマは問題ないと言っていたが、果たしてこのまま放って置いていいのか。衝動的にヒサヤの胸に耳を当てると、確かに鼓動はあった。未だに意識が戻らないのが解せず、腕に力を込めて身を起こす――
「なんつー顔してんだ」
「だっ!?」
唐突に骨ばった手が近付いてきたかと思えば、額に鋭い痛みが弾けた。この行為が彼らの世界では「デコピン」と呼ばれるものだとサリエラートゥが知るのは、まだ先の話である。反射的にサリエラートゥは額を両手で押さえて後退した。
「ってかなんでアンタはいつも裸なんだ」
「……そ、そんなにいつもじゃないぞ。色々と穢れてしまったから洗い流していたんだ。大体、お前も裸だろうが」
全て事実である。やましいことをした覚えはひとつも無いのに、何故こんなに気圧されねばならないのか。げっそりとした表情で文句を言われる理由がわからない。
「男と女の真(マッ)裸(パ)は破壊力が違うんだよ。なんつーか、心臓によろしくないっていうか、体の一部だけ血行が良くなりすぎるっていうか」
「は? 破壊力? 一体何が違うと言うんだ。それに血行が良くなるのが、心臓に悪いとはどういうことだ」
恒例のわけのわからない話が始まりそうな予感がして、サリエラートゥは苛立ちを吐き出した。違う、こんなことを言いたいんじゃないのに。
「よしわかった。わからせるのは面倒そうだってことだけはなんとなくわかった。いいからなんか羽織れ。あと、ちゃんと髪まで乾かせ。暑いからって油断してたら、風邪ひくぜ」
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