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気付かなかったのか、拓真が目から鱗を落としているかのような呆けた顔をする。
「でもなー。半裸でいっか、もう。暑いんだよ~」
「あ、」
思い切って拓真がシャツを頭から脱ぐ。
止めようと声をかけるも、遅かった。
「え?」
こちらが口を開けて静止したのに気付いたのだろう。拓真は久也の視線の先を追って振り返り、そこに立つ女性と目が合った。
凹凸のはっきりとした体型を麻みたいな生地のワンピースで包んでいる。全体的に細くて華奢なのに、胸と腰周りは随分と豊満だ。
女性は大きな黒目をぱちぱちさせた。
かと思えば、怯えるように表情を歪ませ、速やかに走って行った。
残された半裸の拓真が、しょんぼりとした犬みたいな顔をする。
「逃げることないじゃん」
「さあ……お前の色素が衝撃的だったんじゃないか」
「そんなに珍しいのかな~」
「珍しいだろ。アジア系がアフリカの町外れとかに行っても子供が絶え間なく『白人だー!』と踊りながら叫ぶらしいぜ」
それに拓真の薄茶色の髪とグリーンヘーゼルの目と小麦色の肌など、黒髪黒目で褐色肌ばかりの中では一際浮く。
「自分より白かったらとにかく日焼けしてる人でも白人認識デスカ。でも今の子はなんにも叫ばなかったよ」
「お前に一目惚れしたんだなきっと」
「……久也、もはやめんどくさくなってテキトーなこと言ってない?」
「さーあ」
図星を言い当てられて、久也は知らん振りを決め込んだ。とりあえず手作業に戻る。
「この容器、何……?」
疑問符を垂らした拓真の声に応じて、顔を上げた。
女性が立ち去った場所に蓋付きのボウル状容器が二つ積み重なっている。
久也が近寄ると、ちょうど拓真が上の方の容器の蓋を開けていたところだった。
ふわり、湯気と共に怪しげな臭いが立ち上る。
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