05.旅をすれば食中毒

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 傍らで、もう一つはなんだろー、と呟きながら拓真が蓋を外している。サリエラートゥが一緒になって覗き込む。 「塩漬けの川魚と揚げたバナナだな」  彼女の言った通りの物が入っていた。今度は慣れた食材な所為か、立ち上る湯気を香ばしく感じる。別々に調理して一緒に出したのだろう。魚には何かの赤いソースがかけられていた。周りにバナナの切れが転がっている。揚げバナナと言っても衣がついていない、そのまま焼かれた物だ。  甘い匂いに食欲が刺激される。 「これなら食えそうだ。食中毒覚悟で」 「久也は大げさだなぁ」 「お前はもっと危機感を持て。新しい場所に行くってのはそーゆーことなんだよ。ほぼ漏れなく腹を壊すもんだ。下痢止め持ち歩いてるんならともかく」  ましてやこの世界観、水道設備が皆無なのは致命的だ。食事前にどうやって泥がこびりついた手を洗うのか、もうそこから躓きそうである。食材がちゃんと清潔に保存されてきたのかもかなりあやしい。いっそ黒焦げになるまで食材を焼き切ってくれた方が気も休まる。  ちなみに木炭を呑み込むと消化不良が治ると言われているが、真偽は判然としない。 「って待て……このクニで、塩が手に入るのか?」  それは結構大変な事実じゃないか、と久也ははっとなった。塩があるなら、食べ物の長期保存が可能だということになる。氷の無い、暑い地域では必要不可欠だろう。そして塩が手に入るからには海が近くにあるかもしれない。 「集落から歩いて半日の距離になるな。塩水を採れる場所がある」 「塩性湿地か」 「今お前が口にしたのは知らない言葉だが、場所は塩沼だ」 「同じものだな」 「塩沼も面白いが、美しい沼沢林があるぞ。新しい生活に馴染んだ後に、行ってみるといい」 「そーだね、行ってみようよ」  拓真が楽しげに賛成する。脱ぎ捨てたシャツで汚れた手を拭き、草の上に胡坐をかいている。どうやらその姿勢で食事をするつもりらしい。 「巫女姫、食器はあるか」  放っておくと拓真が手で食べ始めそうなので、久也は一応訊いておいた。 「無くは無いが、手で十分食べられるだろう」 「…………」 「わかったわかった、隣家に訊いてみる」  無意識に睨んでしまったのだろうか。巫女姫は驚いたようにたじろいだ後、ころころ笑って踵を返した。長い髪をまとめたポニーテールが気持ちよさそうに揺れた。
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