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尻尾を振って待てをする犬……ではなく、拓真がボウルの前で大人しくしている。久也は片膝を立ててその隣に座った。間もなくして、歯が二本ついた木製のフォークを持った巫女姫が戻ってきた。拓真と久也はそれぞれフォークを取って順番に魚肉を口に運んだ。
「ところで、さっき家を組み立てろと言われた時、やけに驚いていたな。何故だ?」
サリエラートゥが腰に手を当てて訊ねる。
「ぶっちゃけ、おれらは家を建てたことなんて無いんだよサリー」
赤いソースを口周りにつけたまま、拓真が答える。
「何故? 見たところお前たちも成人した年齢に見えるが……家くらい建てるだろう」
悪夢の蝙蝠スープが入った容器を取って、巫女姫は二人の向かいに正座した。膝上にボウルをのせ、蓋を開けている。久也はあまりそちらを見ないように注意した。
「現代人はふつう先に建ててあった家を買うか、人を雇うんだよ」
拓真がバナナの切れをもしゃもしゃ咀嚼しながら言う。
「しかし、自分で住むのだから自分の手で手間暇かけて建てたいと思わんのか」
「いや……そういう充実感もあるだろうけど、自分でデザインやら間取りを決めたいとしても実際に作業をするのは専門家だぜ。腕の良い人間がやった方が効率が良いだろ? 道具も揃ってるし」
「こうりつ? 知らない言葉だ。お前たちの言語は未知の語彙が多いな」
サリエラートゥがそう言った途端、何故か戦慄が背中を駆け抜けた。何故なのかは考えてもわからない。
――ガリッ!
物思いは、歯の間を掠った硬い感触によって中断された。久也は思いっきり苦い顔をつくった。
どったの、と拓真が目を瞬かせて問う。
「今なんか小石か砂みたいなものが……」
「砂?」
「食事に砂が混じるなどよくあることだ。乾季なだけに風が吹けばすぐ食材にかかってな」
「マジか……今後は砂の混じった食事をする運命なのか……」
ずっと警戒しながら食べないといけないのかと思うとげんなりする。
「っていうか骨! 魚の骨すごい! 何でこんなに枝分かれしてるの?」
拓真が感嘆の声をあげたのと同時に口の中をぶっ刺した何か、を手で取り出した。長さ三~四センチの半透明な細い骨はキレイなY字型になっている。食べかけの川魚を見下ろすと、背骨に始まり、あちこちで骨が枝分かれしまくっている。何でそんなに分かれる必要があるのか。意味がわからない。
(骨もこれからは警戒対象だな)
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