05.旅をすれば食中毒

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 気を抜くとすぐ口の中やら歯茎やらが刺されて痛い。 「どうだ、ユマロンガの作った飯は美味いだろう」 「うんうん。直接お礼言いたいな。今度ちゃんと紹介してね」 「まあ美味いと言っちゃ美味い」  褐色肌の美女が齧っている小型哺乳類から目を逸らしつつ、久也も同意した。  三人が食べている内に、日が暮れる。  空はオレンジとピンク色が混ざり合い、段々と周囲が暗くなる。一日の陽の長さがどれくらいなのか、感覚が正確に掴めないが、意外と夕暮れは早いように思えた。 「さて、腕の良い人間を探せばいいんだな」  空になった容器を回収し、彼女は席を立った。  それからサリエラートゥは集落で一番家を建てるのが速くて巧いという男を数人連れて来てくれた。全員で協力し、なんとか二人分が寝るスペースが出来上がった。  その頃にはすっかり夜になっていたので肝心の寝床は毛布を敷いただけになった。寝心地に関しては何とも言えない――草の感触と重ね合わせても、布団のような柔らかさにはまだ遠く及ばない。  藁の屋根を編む時間も無かったので、他所の家から余った物を貸してもらっている。  残るは蚊対策だ。二人は巫女姫にもらった特殊な樹脂を焚いた。煙で蚊を退ける、いわば蚊取り線香の代用だろう。 (この家、頑丈さは期待できないな)  泥を固めただけの壁は、きっと誰かが体当たりをした程度で揺らぐ。が、この際文句は言っていられない。  確かに外は薄ら寒くなってきている。宿が無ければ過ごしにくかったであろうことは間違いない。余程の悪天候に見舞われない限り、当分はこれで我慢するしかない。  どこからか、人の話し声や歌声が聴こえてくる。察するに、集落の民にとってはまだ寝るには早い時間だ。団欒したり、星空を眺めたり、酒を酌み交わしたり、と色々な夜の過ごし方があるのだろう。先程は「お前たちの歓迎会を開いてやる」と巫女姫が誘ってくれた。しかし流石にそんな気力は無いので、別の日にしようと言って早々に久也たちは寝床についたのだった。 慣れない環境への不安と肉体労働をこなした後の疲労がない交ぜになっている為、疲れていながらも目がまだ冴えている。ついでに言えば蛙と虫の合唱がうるさくてなかなか寝付けない。  これからのことに対する心配がぐるぐると思考回路を巡った。
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