06.はしゃぐが勝ち

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 声色は呆れ混じりだが、頭を振る久也の口元は笑っていた。 「よしキタ!」  拓真は躊躇無くシャツを脱ぎ捨てる。昨日から何かと汗をかいたり砂に汚れたりで気持ち悪くなっていたのだ。お湯を沸かして欲しいなどとわがままは言わない、清潔になれれば何でもいい。 「直接河に飛び込まないのは何でだろうな」 「河の水をキレイに保ちたいからじゃない? 全員飛び込んだら汚れるっしょ」 「かな……」 「とにかく浴びようよ!」 「ああ」  拓真と久也はコップを借りて、ひとつの盥を選び、それを囲む子供たちの仲間に混ぜてもらうことになった。 * 「そこで何をしている」  滝神の巫女姫サリエラートゥは、木陰に身を隠している人物に声をかけた。人影は大きく肩を跳ね上げさせ、戦々恐々と振り返る。 「ひっ、姫さま……」  丸顔に大きな黒目が特徴的な女性だ。髪を低い位置で団子にまとめ、頭には手ぬぐいを巻いている。木の幹に片手を当てて肩を寄せる彼女は、見られたくない場面を見られた子供のように身を竦めた。 「ユマロンガ」  サリエラートゥは名を呼んだ。何をしていたのか知ろうとして、彼女が向いていた方向を見る。見ても、イマイチわからないが。 「……ここで何をしていたんだ、本当に?」  少し先の河辺で、子供たちが行水をしている。子供は母親の言うことを聞かずに走り回ったり、濡れた草に足を滑らせたり、水遊びをしたりと、賑やかである。数日に一度は目にかかれる日常的な光景だ。 「いえ、私は……その、洗濯用の水を汲もうと思って……」  ユマロンガは持ってきていた桶を無意味に揺らして答えた。  水を汲もうと思ったのに気後れして隠れたのは何故か、と考えを変えてサリエラートゥはもう一度河辺を見た。そして場違いに肌色の明るい二人の青年の姿を見つけた。見た目は浮いているが、どうやら集団の中に既に馴染んでいるようだった。タクマなんて子供たちと一緒になって水飛沫を飛ばしてはしゃいでいる。  正直のところ、彼らの順応性の高さには感心している。  あの青年たちと自分たちの生活にズレがあるのは、すぐに気が付いた。少なくとも習慣に違いがあるのは明白だ。
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