06.はしゃぐが勝ち

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 たとえば彼らは昨夜、どうやって歯を磨けばいいのか、と訊いてきたので「サルバドラの枝か魚の骨を使え」と助言してやったのだが、その時の二人の驚愕の表情には可笑しいものがあった。ならば口臭はどうするのかと訊かれ、サリエラートゥは虚をつかれた。口臭など、時々思い出したようにとある木の実を噛んで改善している。普段から気にするものなのかと問うたら、やはり二人は変な顔をしたのだった。  だがそんな差異をものともしない柔軟性のような何かが、二人にはある。人懐っこくて元気なタクマはとにかく置かれた状況を楽しむ気概があり、一方でヒサヤの方は文句を垂らしながらも的確に問題点を特定し、対処法を探す冷静さを持ち合わせている。  同じ立場に自分が立たされていたら、きっとああもスムーズに溶け込めないだろう。  手をもじもじと握り合わせたユマロンガが再び口を開いた。 「き、昨日、彼らの前から逃げてしまったので会うのが気まずいんです」 「考えすぎじゃないか? 普通に出て行けばいいだろう。なんなら私が紹介してやろう。そういえば、食事の礼を直接したいと言っていたぞ。済まんな、スープの方は私が食べてしまった。いつもながらに美味かったぞ、ありがとう」 「いえいえ、どういたしまして。ではなくて――」  そうだ紹介してやるべきだ、とサリエラートゥはユマロンガの腕を引いた。 「え、待ってください、心の準備が……何も今でなくても……」  ユマロンガが何かやんわり抵抗しているようだったが気にせずに引っ張った。坂を降り、例の二人の界渡りへと真っ直ぐに進む。  ついでに言葉が通じるように神力を体内から呼び起こした。 「つっめたーい! 心臓止まりそう!」 「気持ちいいけど寒いな。さっさと終わらせようぜ」  二人はしゃがんだ体勢でコップからの水を浴びている。股間にかけたタオル以外は裸である。  思わずじっくり眺め回してみた。タクマはこうして見ると意外と筋肉が引き締まっているとわかる。全身に無駄がなく、上腕二頭筋もなかなかのものだ。太ももの肉付きを見るに、俊足なのかもしれない。逆にヒサヤの方は男にしては痩せ過ぎている。パッと見では中肉中背で肩幅も十分に広いが、鎖骨の主張が強く、しかもアバラが薄っすらと見えるのが気にかかった。今度から食事を多めに出してやるように民に指示しておこう。 「ひめさまだー」
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