07.血と汗と埃が似合う男

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 挑戦者は「ふんっ」と豪快に己の胸を叩いた。何か罵る言葉を連ねているようだが、ヒヤリング能力があまり高くない久也には、速すぎて何を言っているのかわからない。おそらくは、油断を誘う手口だ。  王者は無言で半歩下がって構えた。その手には乗らないらしい。  雄叫びをあげながら挑戦者が掴みかかる。  対する王者は伸びてきた手をかわす。巨体に似合わず軽やかなサイドステップで、猛進する相手を避けた。そしてくるりと半回転、対戦相手の背中に飛びかかった。  ドスン、と二人は砂埃を大量に舞わせて地に倒れ伏す。 「立て! 立てえええええええ!」  観客が色めき立った。王者に押さえつけられた挑戦者が雄叫びで応じる。 「まだだ! 諦めたらそこで試合(略)だよ! 戦え! 立て直せ!」  拓真も仁王立ちになってマクンヌトゥバ語で色々叫んでいる。途中で日本語が混じっているが。  挑戦者は手足をばたつかせるも、いつの間にかその首回りに太い腕が巻き付いている。 (どうなるんだ?)  手の中のコップをぎゅっと握りしめ、久也も固唾を呑んで経緯を見守る。 「一! 二! 三! 四――」 「わあああああ」  声を上げたのは王者の方だった。前腕に歯を立てられての反応だ。  彼は即座に挑戦者の頭を空いた手で掴んだ。  相手の後頭部に、額を思いっきりぶつける。  見るからにどっちも痛そうだが、王者は顔色ひとつ変えない。 「がっ」  短い呻き声の後、挑戦者の動きが止まった。  束の間、観客の輪がしんと静まり返る。  審判が歩み寄り、レスラーたちの状態を確認した。挑戦者は完全にのびているらしい。  そして審判は勝者が再び立ち上がるのを待ち、その手を取って夜空に掲げた。噛まれた前腕には赤く細い筋が浮かんでいる。 「――――! この男、また、勝った!」  実際はニュアンスが少し違うかもしれないが、久也にはそう聴こえた。 「よっしゃああああ!」 「最強! 最強! 最強!」 「―――、よくやった!」  観客が拍手と歓声で応える。  歓声は数分ほど続いた。やがて巫女姫が優雅に席を立ちあがり、勝者の前に立つ。大男はすぐに巨体を折り曲げて跪いた。 「流石だな。お前の強さ、同胞として誇りに思うぞ」 「――――――――、ありがとうございます、姫。―――――――――」
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