07.血と汗と埃が似合う男

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「彼は三兄弟の長男に当たる。こっちが次男のアッカンモディ、三男のアァリージャ。どちらもかなり腕の立つ戦士だ」  巫女姫は手で二人目と三人目の男を指した。どこかで見覚えのある二人だ。よく思い出してみると、初めて滝神の洞窟で目を覚ました時にサリエラートゥを送り迎えしていた胸板の分厚い男たちだった。  まず次男を向く。スキンヘッドの頭に細い目をした、どことなく癒される笑顔がそこにあった。長男よりも背が低くて細身(あくまで兄と比べて細いのであって一般日本人と比べたら充分にマッチョ)である。 「アッカンモディの妻は遠い南の部族の出だ。物々交換を通して我々に綿の衣を与えてくれる部族だな」 「そうなのか」  久也はそれを聞いて納得した。自分も拓真も今は集落の民からもらった服を着ている。初見では麻の生地かと思っていたそれは、独特の綿を編んで作った物だと後に知った。綿が生えていても綿を編む技術が見当たらないのに、何故綿を使った服があるのか。その答えはどうやら、滝神さまの御座す郷と交流のある南の部族にあったらしい。  よろしく、と癒し系笑顔に向かって会釈する。 「三男は少し物覚えが良くないが、明るくて楽しい奴だぞ。タクマ、お前とは気が合うかもな」 「え、マジで? やったー」  アァリージャは久也たちと歳が近そうに見える。くるくるの黒髪を短く剃った、普通の青年と言った雰囲気だ。顔は兄たちに比べると平凡かもしれない。  かと思えば、彼が急に目をカッと見開いた。  拓真の両肩を掴み、興奮した様子で何かを訴えかけている。 「うん、いいよ」  言われたことを理解したのか、拓真がにっこり笑って同意を示した。アァリージャは早速手を伸ばす。  長い指が、薄茶色のボサボサした髪を梳いていった。時々肩から振り返りながら、三男は嬉しそうに兄たちに何かを報告している。 (触りたくなるぐらい珍しいもんなんだな……)  なんて他人事のように考えたが、数秒後に矛先は久也に向かって来た。仕方ないので彼もアァリージャに髪を触られることを同意する。  こちらは色が珍しいのではなく髪質やら手触りやらだろう。見てきた限りでは黒い色はありふれているのだが、生まれつき毛が細くて真っ直ぐな髪をした人間はどうやらこのクニには居ないようだった。  男の手によって髪がぐしゃぐしゃ乱れる感触はなんとも不思議である。
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