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瓜の種から作ったンビケの方も辛いソースと何かの肉が混じっていて、パンや米と同じ立ち位置の食べ物らしい控えめな味ながら、思わず悶絶するほど美味い。主役の魚とは相性抜群だ。
「はー、何でこんなに尻尾近くの肉って美味しいんだろ」
「俺は頭派だな」
「ねえ、同じ魚なのに、どんな大きさでも頭と尻尾で違う味がするのは何で?」
「魚の頭と尻尾周りじゃ造りが違うからじゃないか? 筋肉の質によって味が違うんだよ」
「へえー! 久也は何でも知ってるね!」
「今のはただの仮定だ。どうせ異世界にとぶんだったら、もっと勉強してからがよかったな」
久也の呟きに拓真は目を瞬かせた。
「じゅーぶん勉強してきたんじゃない? 少なくとも適当にやってるおれなんかより」
「実用的な話だよ。俺は将来は医学の研究に進みたかったんだけど、こんなことなら医師免許があればもっと役に立ったろうなって」
「あ、そっか」
「元の世界に戻れなかったら今まで払った学費がパアになるんだな。途中退学だろうな、修め終わってもいない内に。いや……修士号や博士号の一つ二つ持ってたって、この世界で役に立てたとは限らないか。朱音の為にもっと貯金しとけばよかった」
そうは言っても自分に何が起こるのかは先見能力でもない限りはわからないものである。
別世界で一生を終えるかもしれないとわかっていたら、拓真だってこれまでの人生で違った選択をしてきたであろうことは間違いない。
「現代社会って不思議なもんだねー。分業の思想が確立されてない社会だとこうも違うんだね。個人や家族単位で色々できなきゃならないんだよね」
「マルクス……いや、アダム・スミスか。人は社会という全体を機能させる為の歯車であればこそ、何かの技術に特化できる。同時に他のスキルや知識が全く身に付かないんだな」
「そういう意味じゃあ『集落』という単位も社会だよね。ただ、おれらはこの社会で生きていくに必要な物を持ってないってだけかな」
「知識や技術は身に着ければいい。生きる為に本当に必要なのは、学習能力と発想力と機転だ。……と、信じたい」
「そーだね!」
そこでサリエラートゥが口を挟んだ。
「とてつもない話をしているようで私には何がなんだかわからんが、とりあえず精神力と体力は何事にも必要だぞ」
「ごもっともな意見だな」
と久也が答えた。
(あ、珍しい笑顔)
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