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少しだけ懐かしい気持ちになる。
これでも大学では英研サークルに入っていたのだ。元々拓真は家族の事情で英語が話せたので、積極的に使える場を求める気持ちがあった。
久也の方はサークルに属すタイプではないが、外国語には興味があるのでよく話題に上がった。二人して国際的な目線で物事を解析して楽しんだりもした。
「お前たちの会話は未知の単語が多すぎる。何なんだ、カントンとかドイツとか」
サリエラートゥがふくれっ面になって言った。いつもの済ました顔は麗しいけれどこういう表情も可愛い。
「未知の世界から来たんだからそういうもんだ」
今は説明するのが面倒だ、と言わんばかりに久也がしれっと答える。
一方、前方の空気は雲行きが怪しくなっている。長い間を置いてから、アレバロロが真摯に言い放った。
「企んでいるとは何事だ。この青年たちはワケあって保護している。我らにとっては同胞も同然だ」
「保護しているだと? 利用しているの間違いではないのか」
「何ゆえそんな言いがかりを!」
三男のアァリージャがつっかかった。
だが北の部族は薄い笑みを浮かべるだけで答えない。
静寂の中、遠くでは一対の鳥が鳴き声のキャッチボールをしているのが聴こえる。きっと雄が雌を誘惑している類のやり取りだ。
(う~ん、何でどっちも喧嘩腰なんだろ。普通に仲良くすればいいのに。なんか因縁あるんかな)
事情を知らないので拓真は首を捻るしかできない。
「一つ訊きたい。あなた方は、我らを冷やかす為に沼に現れたのか?」
静かでありながら厳しい声音が響いた。立ち位置を調整して声の主の顔を窺ってみると、アッカンモディだった。仏像が如く常に微笑の形になっているはずの細目が僅かに見開かれている。口元はまだ笑っているのに、目が据わっていて怖い。
「まさか。我々は象狩りをしようと思っていたのだが、もっと面白いモノを見つけたので寄ってみたまでだ」
「象狩り……だと……!?」
巫女姫が反応した。
「さよう。下等部族と違って我々はどんな動物も好きなだけ狩るのだ。制限など必要ない。何故なら、領域から動物を獲り尽くした後は他の領域を侵略すればいいのだからな」
カフェラテ族の茶色い瞳に強欲の光が宿った。拓真はなんとなくそれにムッとなった。
「勝手だな。北の民はいつからそんなに血を流すことを良しとしていたのだ?」
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