10.ああいう現象か

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「サリーの言う通りだよ! 自分たちが無節制だからってさ、それで他の人から奪って補うなんて理不尽だ!」  気が付けば叫んでいた。  酷い連中である。自然から取る行為に制限が必要だと知らない時代か思想の人間か、或いはそれが無くても平気な豊かな大地だったならまだしも、この男たちは自分たちの住まう環境にそれが必要だと認識している口ぶりだ。その上で、好きにやるつもりだなんて。 「心外な言われようだ、白人。これは我らが長の方針だ。特に滝の神を祀る集落には富が無限にあるのだろう? できるだけ活用せよとの仰せさ」 「対等な交換ならいくらでもしてやったのに、北の民も変わってしまったな。長が代替わりしてからか」  アレバロロが低い声で言う。 「さあどうだろうな。ともかく我々は気が変わった。今日は象はいらんから、白人どもを明け渡せ。長への手土産に」 「誰が渡すものか! 兄者!」  アァリージャが兄たちに縋るような目を向ける。アレバロロもアッカンモディも頷いた。  これは本気で喧嘩になる――?  成人男性同士の諍いがどういう結果を招くかなど、知れている。 (どうすんのこれ!)  三対五では数に不利だ。今日は戦士と一緒だからか、サリエラートゥは丸腰のようだった。 「そんなに申し訳なさそうな顔をするな、タクマ。どの道お前たちが北へ去ったら、私が死ぬかもしれんしな。抗うしかない」 「でもそれならおれも戦うよ!」 「やめておけ。何かの拍子で捕まったら護ってくれる三人に迷惑だろ」  久也がこちらの提案をバッサリ切った。おかげで拓真も頭が冷える。  どんな時でも的確な意見で恐れ入る。そういえば久也と初めて会った時の状況って―― 「おおう!」 「ふん!」  気合の声に次いで武器と武器の衝突音が響いた。カフェラテ族の人たちは弓矢以外に短めの槍を持っている。  骨製ナイフを操り、槍に応戦するアレバロロたち。武器の短さの不利をものともせず、間合いを測りつつ踏み込んでいる辺りに彼らの戦士としての力量を感じた。  拓真は昂りに近い戦慄が己の血を伝って広まるのを感じた。  飛び入り参加をしたいと疼きながらも衝動を抑え込むのは、親友への信頼からだ。 「わかったよ久也。戦いたいなんてもう言わないから、何か手伝えることないかな」
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