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状況把握力の高さでは適わないとわかっている。ゆえに素直に頼った。巫女姫サリーが驚いたように眉を吊り上げる。
「ある。後ろで弓矢を構えてる奴らの妨害をしろ。お前の足なら……」
どこをどう走り抜けば一番効率的なのか、久也は口早に説明した。
離れた場所で弓矢を構えた二人は、援護をしたいのにそのタイミングをまだ見つけられていないかのように目をきょろきょろさせている。
――カァン!
アァリージャが敵の槍を弾いた。
(今だ!)
勝利を確信したアァリージャが相手の腹に膝蹴りし、膝を付かせるまでの間に。
拓真は走り出していた。
骨製ナイフが威嚇するように敵の喉元に近付く。
(双方の動きが止まった、この時なら! 後方支援は狙いを定められる!)
だがそれをさせない為に走るのだ。
拓真は全力疾走していた。
――弓を構えた二人の弓弦が放たれるまで何秒ある!?
片方が拓真に気付いて、驚愕した。弦を引く手が既に緩んでいる。
もう一人は集中力を乱さない。弓弦を引き切って、なお狙う先を見据えている。
「させない!」
体当たりが好ましいがこの距離では間に合わない。
拓真は直ちにスライディングで停止しつつ、しゃがんで右手で濡れた草と土をむしり取り――
投げる。
土はターゲットの右目に当たって散った。
「ぐっ」
弾みで男の指が滑る。
矢は本来の的を大幅に外して、近くのパームツリーの幹に刺さった。
邪魔をされた男たちが何かを叫んでいる。多分「きさまぁ! よくも!」みたいなことだろう。
低い体勢のまま、地に両手をついた。しゃがんだ左足を軸にして右足を半時計回りに蹴り、手前の男の脛を蹴り飛ばした。男は足をもつれさせて倒れる。
(あと一人!)
至近距離ながらも矢先の煌きが目に入った。
静止したら射止められる。背中がぞくっとした。
前転、側転。
相手の背後に回って胴体に両腕を巻きつけた。五人のカフェラテ族の中で最も年下で体重が軽そうな人が相手で幸いだ。
「ただの一般人による、ジャーマン! スープレックス! で! どうだ!」
「ひいいいいいいいいいいい!?」
後になって考えると「よくおれ腰耐えられたなぁ」なんて感想が出るものだけれど、やっている時は必死である。奇跡的に腕力も足りていた。
「おるぁああああ」
視界が反転する。
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