11.キロク

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 集落の民が生きる為には必要なことだと、自分はそう割り切れるだろうか。そしていつかは自分たちもああなるのだろうか。あんな風に丸裸にされて。暗い洞窟の中で「重要な臓物」と「その他」にパーツが仕分けられ、それぞれ別々の深い穴に落とされて。いるかどうかも確認できない神に全部捧げられて。親指の爪だけ、不特定多数の生贄用の墓石の下に埋められて。  そうして故郷では、遺体の無い葬式が挙げられ、親族の下には灰も骨も残ることなく。  心底望まない限りはそうならなくても良いのだと、わかってはいる。  わかってはいるが、恐ろしいことになんら変わりは無い。  ――突如、頬を撫でる風があった。  ベンチの冷たい石に振動が伝わり、ふわっとやわらかい髪が膝をくすぐる。久也は左を向いた。  長い黒髪をハイポニーテールに縛ったサリエラートゥがちょうど飛び込むように腰を下ろしていたところだった。  朝の作業の後に身を清めてきたらしい。石鹸の香りがチュニックの肩辺りから微かに漂っている。優しげでいい匂いだ。 「こんな所に居たのだな、ヒサヤ」 「ああ。拓真は?」  ちなみに拓真は儀式に立ち会うのを拒んでいた。普通に考えて、誰だって立ち会いたいモノでもないだろうけれど。 「アレバロロたちとの朝稽古の後、とんでもない形相でユマロンガの家に駆け込んで行ったと聞いたぞ」 「あー……あいつ腹減ると凶暴化するからな。元気だな……」 「そういうヒサヤはいつにも増して顔が白いな。また胃か? それとも熱か」  ここで彼女の言う「熱」はマラリアやら黄熱やら出血熱やらをまとめて示唆している。この世界はどうやら多くの点で地球と酷似しているようで、流行しうる病の種類もその一点らしい。ここでよくある病の説明を聞き出して、危惧していたままだと知った。そのため常に長袖長ズボンを着るなど、蚊対策も抜かりなく行うようになった。飲み水はギニア虫を警戒して、集落の人たちが井戸水を濾過する過程をしっかり観察するようにもなった。 「ご心配なく。普通だよ」 「普通でそんなにぐったりしているとはいかんな。もっと精をつけろ。大体お前は食べる量がタクマに比べて三分の一も無いじゃないか」 「あのブラックホール胃袋と比べられても困るんだが」 「『黒い穴』? 穴は決まって闇の色なのに、わざわざ黒い穴と言うのはどういうことだ?」  サリエラートゥは不思議そうに首を傾げた。
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