11.キロク

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「それは主に集落の民の為にあるルールだ。濃い神力の前では体が急に大量に吸収しようとして、あてられるんだ。私が一緒なら神力はより適した器である『巫女姫』の方に引き寄せられる」 「避雷針みたいなもんか……?」  久也はひとりごちた。 「異界から来たお前たちは神力を必要としない生活をしていたから、体もそれを吸収しようとしないはずだ」 「なるほど。けど俺らも長くこっちで生活したら? 神力の影響を受けた食事や水を摂取しているし……そういえば神から得た力を『還元』するんじゃダメだって言ってたな。最終的には、生贄としての力も減るんじゃないか」 「さあ、それが実はよくわからないんだ。最後に生きた生贄が来たのは二十年前、私が生まれる前だったし、その時に来た男は集落からすぐに脱走したからな。そういえば、お前たちは歳は幾つになる?」 「俺は二十一で拓真が二十歳だ」 「既にそれだけの年数、それと最も成長の著しい幼少期を別の世界で過ごしたんだ。今更少し神力を体内に入れたところで、生贄としての効力はあまり失われないだろう……多分」 「そうか」  喜ばしいことなのかそうでないのか、複雑な気分である。  とはいえ、生贄として用無しとなれば、自分たちはただの集落民として働くことになるだろう。それももしかしたら、雄としての役割を果たして子作りをしろなんて言われかねない。見たところ、早くて十五歳で家庭を築いている男たちもいる。 (これまた微妙な物思いだな)  もしや二十年前の男が脱走したのは、そんな所帯染みた生活よりも、何か違うことを始めたかったからかもしれない。  なんてふと考えながら、久也は洞窟へ向かう為にベンチを立ち上がった。
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