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「じゃなくて、異世界だよきっと!」
そうだ、それがあった。思い至ったからにはわくわくしてきて、拓真は周りにきょろきょろと視線を走らせた。どこからか、トロピカルな鳥の鳴き声が聴こえる気がする。
ワイシャツの裾から水を搾り出していた久也が、ピタリと動きを止めた。
「だからお前は少年漫画の読みすぎだ」
「夢のないことゆーなよー」
「すると何か? 神隠しに遭った藍谷サンの兄貴も捜せば出てくるのか?」
「そこまではわかんないよ」
はぁ、と久也が長いため息を吐く。
「大体、異世界トリップものの定番といったら剣と魔法というオプションをくっつけた上で、中世ヨーロッパじゃないのか。ここはなんていうか……アフリカ?」
「熱帯雨林といえば南米か東南アジアだよ」
「多分、ここは熱帯だけど雨林じゃないんだろ。そういう問題じゃなくて――」
――ザバァ。
言い合う二人から離れた位置で、大きな水音がした。
自然と黙り込んだ拓真と久也が、首だけを動かして音のした方を振り向く。滝の傍である。
河の中心から、女性の頭がのぞいた。
女性は二人には気付かないのか、そのまま同じこちら側の岸に向かって泳ぐ。岸から斜めに伸びる木の幹を支えにして、しなやかな裸体を優雅に水から引き上げ、幹の上に腰をかける。
波打つ黒い髪は腰までの長さがあり、その合間からはたわわな乳房と柔らかそうな腹部が見受けられる。
女性は長い髪を首の右横に寄せて、指で梳いている。肩からうなじへの美しい曲線があらわになった。
顔立ちは遠くからもわかる綺麗な卵型で、高い鼻や艶あでやかな唇が印象的だ。
褐色肌には赤銅色に近い深みがある。たとえるなら溶けたミルクチョコレートのよう――
「おい、よだれ垂れてるぜ。垂らすならせめて鼻血にしたらどうだ」
呆れていながら笑いを堪えている、と言った具合の久也の突っ込みで意識が引き戻された。
「だって……うわああ……超絶美少女っていうかおいしそうっていうか……おれ生きてて良かった……!」
「美人ではあるな。エチオピア系美女? 相当にエロくていらっしゃる」
置かれた状況に抱いていたはずの疑問が、残らず脳の隅に押しやられた。
現代を生きる女性にはなかなか見られないような、野性的なバイタリティ。それを全身からほとばしらせる彼女は、十代後半くらいの若さに見えた。
「なんとかお近づきになろうよ」
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