12.ブラウンノイズ

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「この単調な見た目、文字のバラエティの数……ヒエログリフよりは楔形文字に近いな。アッカド、シュメール……よりはウガリット語か。似てるってだけで、表音文字なのか表意文字なのかで大分見方が変わるけどな。楔形文字だと上代日本語みたいに入り混じってたりするし」  文字の窪みを指先で追ってみた。 「また呪文の羅列か?」 「神の力が使えるアンタに呪文とか言われるとなんか笑えるな……。俺と拓真の元いた世界で、こういうのに似た文字は過去に使用されていたんだよ」 「それは誰もに伝わる一般知識なのか」 「いや、ただの趣味で調べた」 「趣味でそんなにわかるとは驚きだ」 「平たく言えばそういう世界観なんだよ。いわば情報時代って奴で、どんな発展途上国でもネット環境さえあれば知りたいことは大抵知ることができる。例外があるとすれば情報が管理されてる国か」 「ネット? 『網』? 網の整った環境で情報を教えてくれる人間を釣るのか?」  腕を組んで首を傾げるサリエラートゥ。 「……やべえ、わかるように説明できる気が全くしない」  文字の素晴らしさですら説明しきれなかったのに、インターネットという発明は更に数段階飛ばしている。無線機や携帯電話という意思疎通用の機器から始めた方がいいかもしれない。それ以前に、通信という概念の重要性が伝われば良いのだが。 「まあいい。私も説明されてもわかる気がしない。それより、お前にはそこの粘土に彫られた記号が読めるのか?」  サリエラートゥの視線が粘土板に集中する。心なしか黒い瞳に期待が光っている風に見える。 「残念、今のままでは解読不能かな。たとえウガリット語だったとしても、別に俺は暗記してる訳じゃないし。たとえ記号の音が読めたとしても言語がわからない。東の言葉が読める人間は集落に居ないのか?」 「東の民と血筋が混じった子孫は居ると思うが、読み書きできる者は居ないな」 「そうか」  元々読み書きできる人間が居たとしても、きっと周りが使わないから忘れたのだろう。使われない技術とはそういうものだ。 「こればっかりは、神力でもダメなんだな……」  と呟いたら、サリエラートゥが頭を振った。 「神力は意思と意思の間の架け橋になる。対象が人間でも動物でも、意思が強ければ通じる。だがその粘土板は古い上に、作った人間がとうの昔に世を去っている。それはただの焼けた粘土の塊だ」
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