13.もちをつけ

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 普段は何をしていても就寝時間になれば一緒の家だから顔を合わせることになる――それが日常のはずだが、ここ最近ではたまに久也が気付かない内に洞窟で夜を明かしたりするので丸一日、または数日会わないことだってある。 「何言ってんだ、この間雨季に備えて家を補強した時に会っただろ」 「久也こそ何言ってんの、この間じゃなくてそれ三週間前のことじゃない。もうすっかり雨季だよ」 「げっ、マジか」 「洞窟に引きこもり過ぎて時間の経過が曖昧になったー?」  みたいだな、と久也は苦笑した。  次いで彼はユマロンガと軽い会釈を交わした。その後、弟たちの世話に戻らなければならないからと、ライチをまた一握り置いていってユマロンガは去った。  残った青年たちは顔を見合わせる。 「まあ座りなよ。なんかわかったの?」 「そうだな。全部で十五枚ある粘土板の内、それぞれに付着してる感情が大体わかるようになった」 「じゃあ解読できそうってこと?」 「文章の解読はまだまだだよ。ただ、これが神力しんりき効果って奴かな。付着してる感情がなんとなくわかるようになると限定符とかもなんとなくわかるっつーか、解読がはかどるっつーか」  拓真の隣に腰をかけて、久也はこれまでの首尾を要約して話し始めた。  集落にいる東の子孫を見つけ出し、彼らの言語でよく使われる音節などを調べたこと。よくある言い回し・フレーズをなるべく書き出し、粘土板から感じ取れる「意思」に沿った言い回しを厳選し、音数や文字数を照らし合わせたこと。  一部同じ記号が頻繁に使われているのを見て、久也はそれらを限定符だと推測したこと。限定符とは口語には使われない、似たカテゴリの言葉を分類する為の記号だ。大抵は発音されない。 「未だに確信を持って『この記号はコレだ!』って断定しづらいのばっかりだ」 「う、う?ん。むつかしすぎておれにはさっぱり」 「でも一つだけ、気にかかったのがあるんだよな」  久也は懐に入れていたらしい粘土板を取り出した。曰く、乾いて固まっていただけの他十四枚と違って、この一枚だけは意図的に焼かれていたとか。それはつまり、作った本人或いは別の誰かがこの内容だけは粘土の再利用にまわさずに確実に留めて置きたかったということになる。 「読み取れた感情はなんていうか、知的好奇心と興奮みたいな感じだ」
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