13.もちをつけ

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「それって四代前巫女姫は何かを発見したから興奮して書き留めたってことかなぁ」 「多分……」  拓真は件の粘土板に視線を落とした。一目見て、ある記号に注意が行った。水滴に似た逆さの楔に挟まれた、小さな丸。水に挟まれた太陽だろうか。ピンと来るものがあった。 「この記号、なんか季節の移ろいみたい」  久也が興味深いことを聞いた、と言いたげに目だけ動かしてこちらを見た。 「なるほど、それは気付いてなかった。水滴で雨、丸の太陽で晴天。雨季から乾季、また雨季になることで時間を表現してるのかもな。『時間』の限定符なんて聞いたことも無いが……時間そのものの記号か?」  親友が考え込んでいるのを横から眺めていたら、誰かの呼ばわる声が響いた。 「タクマ!」 「あれー、リジャ。やっほう」  戦士三兄弟の末弟、アァリージャがにかっと笑って駆け寄る。両手に何かを抱えている。 「姉者が――」  この男は明るくて良い奴だが少し舌足らずで、しかも口早に喋る傾向にあるので、少なくとも四回は同じことを言わせないとこちらは理解できない。此度は三度目で何とか聴き取れた。  ちなみに姉者とは彼の義姉、ルチーを指す。ルチーは夫のアッカンモディと似て菩薩みたいな微笑みを常にたたえるほんわかとした女性だ。 「姉者がこいつが食べごろだからそろそろスープにするって」  アァリージャは手に持った物を掲げた。  亀である。黄土みたいな色に黄緑が混じった甲羅が印象的だ。持ち上げられた亀は甲羅の中に身を隠している。  この亀は最初から食べることを目的にずっとアッカンモディの自宅で飼われていたらしい。拓真も、時々這っている姿を見かけたりした。 「どうだ、食べないか?」 「えーと」  なんとなく隣を見た。いつもなら口うるさく心配する久也は未だ考え込んでいるのか、「お前の好きにしろ」と手を振っている。 「うん、食べる!」 「よろしい!」  アァリージャが嬉しそうに拓真の肩を叩く。  数秒後、用件が済んだはずのアァリージャは大きく笑ったままその場に硬直した。 「あれ、どうしたの」 「うむ……何か、もう一つ言わねばならないことがあったような」 「忘れちゃった?」 「ううむ。むしろこっちが本題だったような」  がはは、と彼は能天気に笑う。
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