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覚えの無い単語が並んだ所為で、サリエラートゥの思考回路が詰まった。教育や学校という概念はわかりそうでわからない。言葉の意味がなんとなくイメージできても、何の為にそんなものが存在するのかがさっぱり掴めないのである。大勢の子供や大人を一箇所に集めて漠然とした何かを教えるらしい、が。
そこでヒサヤが話題を転換する。
「ところで粘土板のことだけど、『違う時間の流れ』って言葉に心当たりが無いか」
「うーむ。特に無いな」
「他に手がかりは……この粘土板を解読してる時、たまに誰かの記憶がちらつくようになってきたな」
「それは凄いな。お前の狙い通り、書いた本人の思念に触れられたのか」
「多分そうだ。で、内容は単に人の姿なんだけど、それが俺らみたいな来訪者っぽいんだ」
「それで!?」
まさかあの粘土の塊がここまで特別な物になると以前は全く想像できなかったサリエラートゥにとって、心躍る話だった。ベンチの端を両手で掴んで身を乗り出した。
「それだけだよ。でも、人の姿は代わる代わる見えるんだ。それぞれ別人なのはわかる。俺に視える最後の一人だけが、生きてるんだ」
「そうか……生きた界渡りはそんなに以前にも来てたんだな」
「他の歴代巫女姫についてもそういう話は聞いてないか?」
どうだろうな、と答えてサリエラートゥは考え込んだ。
「生きた界渡りの話は本当にあまり聞かないんだ。ただ、そうだな。三代前のイパンガは特に長く巫女姫をやっていたから、会った可能性は他より高いが」
「もっと詳しく頼む」
ふいにヒサヤの声が近付いた気がした。もしも隣に座る気があるのならと思ってサリエラートゥはベンチの場所を空けた。だがしばらく待ってもヒサヤは座らない――なのでそのままで答えることにした。
「巫女姫になる為に必要なのは適性のみだ。身体と神力の相性などが最も良い処女がなるしきたりだ。そして自分より適した人間が現れたら引退して普通の民として生きる。イパンガの代には彼女より適性の高い人間がなかなか現れなくてな、四十年以上は巫女姫の役職に就いていたそうだ」
「へ……え。大変だな。四代前はちなみに何年やってたんだ?」
「確か二十年前後だったかな」
ふーん、とヒサヤは相槌を打った。
「しかし、記憶の中の対象が界渡りだとどうやってわかったのだ? やはり肌色か?」
サリエラートゥはさっきから気になっていたことを訊ねる。
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