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「別に全員が全員、色素が薄かったんじゃないぜ。服装で一発でわかった」
「なるほど、服装か。確かに毎度生贄の着る服は全然違うな」
「ん? 待てよ、服?」
何かに気付いたようにヒサヤが口を噤んだ。
(服から何かわかったのか)
数十秒待てば、また彼が口を開いた。
「時間の流れ……そうだ。服装は、特に先進国のそれは、時代背景を顕著に表してる。生きた地球人が現れたなら、他の生贄の遺した服を見るだけでも色々わかる。何気に捧げられた生贄の私物って洞窟の中で第三の穴に埋められるし、繊維によっては分解されるのが遅い。過去の生贄の遺物から何かに気付いて、巫女姫に話したのかも。そうだ、きっとそういうことだ」
興奮気味のヒサヤの声がまた遠ざかる。
火打石の音に続いて、急な明るみが洞窟を照らした。青年が物置棚から拾い上げた粘土板を凝視する。明かりに目が慣れるまでに何度も何度も瞬きながら。
「おいおい、これが本当だとすると此処は海底の楽園じゃねーか!」
あまりに急な大声にサリエラートゥは怪訝な顔になった。叫ばれた内容もおかしい。
「は? 何を言っている。海底なわけあるか」
「暗喩だよ! こうしちゃいられない、早く拓真にも伝えないと!」
ヒサヤは粘土板から視線を上げてくるりとこちらを振り向いた。
瞬時に界渡りの青年は百面相し出した。驚愕、焦り、呆れ、諦め……と表情は続いた。
「しょーがねーな。ホントにアンタは」
「いきなり何だ」
やれやれと頭を振るヒサヤに苛立ち、サリエラートゥが頬をぷくりと膨れさせる。
「自覚できないとこが余計性質が悪い」
「だから一体何だと言うのだ」
ヒサヤは濃い茶色の双眸をサリエラートゥの両目としっかり合わせ、一音ずつを区切って発音した。
「ふ、く、き、ろ」
ようやっと理解したサリエラートゥは唇で「おぉ」の形をつくる――。
*
二人の家まで土手道を上る途中、先にこちらに気付いたタクマが内から扉を開いた。もう雨の勢いも弱くなっているので台地では人の声がざわついている。
「サリーに久也ってばいいとこに! 探したんだよ!?」
「どうした」
ただならぬ雰囲気にサリエラートゥが即座に問い質す。
「北の民が来てるんだ。今バローの家に留まってるよ。正式な挨拶だって言ってアンテロープ一頭の手土産まで持ってさ」
「なんだと?」
無意識に声音が低くなる。
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