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「明後日、沼沢林にて会合したいってさ。長が直々に来るって言ってるけど、ホントかなあ。罠だったりして」
タクマは薄茶色のボサボサとした髪を引っ掻いた。
(これは奴らの挑戦かもしれない)
すぐにでも使者に会わねばならない、とサリエラートゥは奥歯を噛み締めた。
「拓真、そんなことより俺からも重要な話がある」
「え、なになに。どったの」
家にも入り切らない内にヒサヤが切り出した。余程の発見をしたのだろう。声に緊張が張っている。
こうなっては使者に会うのはこの後でも良い、とサリエラートゥは判断した。
「私も聞きたい。結局粘土板にはなんと書いてあったのだ?」
「つまりこういうことだ」
家の中に入り、床に胡坐をかいてヒサヤは己が導き出せた仮定を手短に話した。
「粘土板から拾えたのは『違う時間の流れ』以外にもいくつか単語があって、それを強引に繋げると『絶望した、場所が無いから』みたいなことになった。それで俺はもう一度、書き手の記憶の映像を視てみたんだ。記憶は一瞬だから自信を持って断言できない」
それがついさっき、服の話をした直後に火を付けて確認していた時のことだ。
「もう一回視たら、最後の生きた人がそれまでの生贄さんの服装から時代情報を拾った、って仮定の裏付けが取れたの、久也? あれ、時代情報? ん??」
タクマが理解に苦しんでいるように口元をぐにゃぐにゃと歪ませている。サリエラートゥといえば挟める口も無いくらいに理解できていない。
「他国だと細かい時間の変化はわかりづらいから、多分同じ文化圏の人の服をみつけたんじゃないかなと俺は思う。記憶の映像はこれを肯定している。生きた界渡りの人と似て非なる服を着た生贄が居た」
「わかった! その人は自分の知る国にとっての時代遅れの服をみつけて知ったんだ!」
「そういうことだ。この世界と俺たちの元居た世界は、時間の流れが違うらしい。おそらくこっちの方が遅い。つまり近い内に帰る方法を見つけないと、大学では欠席が重なりすぎて途中退学扱いになるし、最悪の場合は浦島太郎だ。場所が無い、つまり帰る居場所が無くなるんだよ」
「う、浦島太郎!? 玉手箱!? それって結構ヤバイんじゃない!」
「ああ、ヤバイ」
いつしか二人して相当に青ざめている。
「ウラシマタロー? お前たちがさっきから連呼しているその呪文は何なんだ? いい加減に教えてくれないか」
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