16.不幸に連なる解答

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「あー、そうだねぇ。一杯聞き込んだけど悲しいくらい情報が無かったね。残る所は……人魚に訊くか、滝神さまに訊く?」 「どれもハードル高い相手だな!」  頬杖から素早く起き上がって久也が怒鳴った。ここならばどんな大声も水の壁に吸い込まれて消える。  ――ふむ、突っ込むだけの気力が残っているのは良いことだ。拓真は口の端を吊り上げた。 「まあ、それだけじゃない。俺はどうにも浦島太郎説に納得してないんだよ」 「え? でも筋は通ってたよ」  一昨日久也が語って聞かせてくれた、「この世界の方が地球よりも時間の流れが遅い」という結論には拓真もサリエラートゥも納得していた。  だが本人は後になって疑問を持ち始めたと言う。 「組み立てた理論に根本的な綻びがあるんだよ。そこを突けば一気に破綻しかねない」 「う、うーん」  そうは言っても拓真にはよくわからないので苦笑しか返せない。  なんとなく手を伸ばして滝の水に触れた。手の甲から肘を滴るまでに腕を伝う冷たい感触が、気持ちいい。手の甲が程よく濡れたら今度は裏返して掌を濡らした。 「もうここにいついちゃえばいいんじゃない? なーんにも無いけど結構楽しいし。勉強やバイトのストレスも無くて平和だし。おれたちの世界の遊びとかも広めればもっと楽しくなるかなー」 「基本生活は良いとして、俺はサリエラートゥに『妻の一人二人娶りたいんじゃないか』って言われたぞ。最終的にそういうことになるんじゃないか」 「ま、そうなったらその時はその時だよ。若い女の子一杯居るし、可愛いし。日本人女性はうなじと脚線美が美味しいけど、ちょっと全体が細すぎるかな。こっちの子はむっちむちでやわらかそう」  ハッ、と久也は鼻で笑った。 「若い女は確かにそうだが、奥様方を見ただろ? あの肥満っぷり、結婚後の女性がああなる運命だと思うと萎える」 「ギャー! 肥満!? 女性の禁止ワードを軽々と!」 「そこは文化の違いだ。嫁に出す前に娘を太らせる習慣があるくらいだ、『恰幅が良いんですね』って試しにコメントしたら『まあ! そう思います?』って照れ臭そうに反応されたぞ」 「ちょ、一体何しちゃってんの……久也ってたまに変なトコで冒険者だよね」 「肥満は2型糖尿病と結び付きが深い。俺はこの集落の未来を心配して言ってるんだ」  流石は医学部、目がマジである。こっちはそんなこと考え付きもしなかったのに。
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