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(今のは英語か!?)
Hypocriteとは美徳や道徳を偽り、口先だけの信念・正義を振り回す人間のことだ。政治家への評価などによく登場する単語だが、日常生活の中でも、言っていることとやっていることが不釣合いな人に「You're a hypocrite」と普通に投げつけたりもする。
(何で、コイツが英語を知ってる)
目の前の男は界渡りなのか、それとも界渡りである人間からその言葉を学んだのか?
久也には「この世界に○○という概念が――」のくだりに心当たりがあった。此処に来てから、何度か似たようなことを口走っているからだ。自分の場合は、主に集落での効率という概念の不在を嘆いていた。
そう考えるともしや長自身が――?
この点、隣の青年はどう感じているのだろうか、と気になって一瞥してみた。そしてぎょっとした。
(どういう反応だ……?)
戸惑いと怒りがない交ぜになったみたいな表情だ。拓真は小刻みに震え、青ざめた顔で唇を噛んでいる。グリーンヘーゼル色の瞳は射抜く勢いで北の長を睨んでいた。勿論、長の方は気付かない振りをしているが。
「――私とお前を同類みたく言うな! 我々は既に死した贄(にえ)のみを頂戴している!」
一方、サリエラートゥはとうとう立ち上がって叫んだ。腰にかけたビーズの装飾品(ベルト)までもがジャララッと苛立たしげな音を立てる。
滝クニの民もざわつき始めた。
久也は人目につかないように、再びサリエラートゥの足首にそっと手を触れた。
「ならば異人の青年たちを囲うのは何故だ? いずれ頃合を計って内臓を抜き取る為であろう」
「……っ! 違う! そんなことにならな――」
「違わない。保護だ何だと言っても最後は利用して捨てる、そんな奴らがはびこう世の中だ。私はありのままの世界観に便乗しているのみ」
長は全く怯まずに冷徹な声で応じる。
「自主的に人柱を提供してもらえないなら、奪うまでだ。言ったはずだ、貴様らに拒否権は無い」
北の部族の戦闘要員は長を中心に孤を描くように並ぶ。弓矢の狙う先が一点に集中する。
答える代わりにサリエラートゥは武器を手に取った。集落の戦士たちも巫女姫に倣って七、八人が進み出る。
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