6人が本棚に入れています
本棚に追加
「これも先に断っておくが、我々の使う矢には即死性の毒を塗りつけてある。ハッタリでは無いぞ、下手に抵抗しようものなら一瞬で終わりだ。私は平和的な取引を心がけているからな、懇切丁寧に教えてやったぞ」
「戯れ言を! 何が平和的だ!」
槍を構えたアァリージャが長に向けて叫んだ。
「他人を蹂躙してそんなに楽しいのですか」
次にアッカンモディが静かに問う。薄っすらと開かれた両目には敵意が渦巻いていた。
「楽しはくないさ。胸糞が悪いよ。だが私は滝の神には特別な恨みがあるから…………そうだな、貴様らだけは特別に! 蹂躙するのが! この上ない、快感! だ!」
長は腹を抱えてげらげら笑う。とんでもなく失礼な男だ。
(それにしても特別な恨みってまさか)
加速する険悪な雰囲気と引き換えに、足りなかったパズルのピースが集まりつつある、そんな気がしてきた。たとえ性根が腐っているとしても、お喋りはこちらにとって好都合である。
「今日は引き下がるとしよう。後日必ず、人柱を回収に行く」
数秒笑ってから長は仰向けに止まって、突然がばっと身を起こす。
「何が回収だ。人攫いのことだろう」眉間に皺を刻んだアレバロロが拳を握った。「このまま帰したりはしない!」
「無駄だ無駄だ! あーっはっはっは!」
長は両手を天に挙げた。直後、一斉に矢が飛ぶ。
――キン! キン!
先頭の戦士たちがナイフや槍で次々と矢を弾いていた。その中に拓真の姿もあった。
サリエラートゥは女性たちを庇って逃がしている。
非戦闘員の自分も非難すべきだ、と久也は努めて冷静に判断した。慎重に立ち上がって、横の茂みの方へと逃げる。
――ぱしゃ。
茂みの傍の水溜りに足を踏み入れたと同時に、久也は小さく息を吐き出した。
「動くな」
死角から左手首を掴まれ、首筋に冷たい感触が触れた。
左腕が背中へと捻られる。肩に走った痛みに反射的に呻き声が漏れる。振り返れば、すぐそこまで長が来ていた。久也を拘束する部下の代わりに奴が話している。
「――――していれば、怪我は――――」
聞き取れなかった単語は文脈から読み取った。抗うのは愚かだとわかっているので、久也は指示通りに大人しくした。背中に冷や汗が吹き出るが、焦りはそれほどひどくなかった。別に連れ去られたって構わない、むしろもっと情報を得るチャンスとなりうると思考を逆転させればいい。
最初のコメントを投稿しよう!