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確認できたわけではないが、銛のフックが肺を抉ったような気がする。それは半端な応急処置で助かるレベルの怪我ではない。
(どうなってやがる)
床に座らされ、腕は後ろの柱(鍾乳石?)にきつく結び付けられている。
非常に奇怪なことだが、夢に出た場所とよく似ていた。それだけで気分が悪くなったものの、頑張って状況を把握しようと動いた。
首を精一杯後ろへ曲げてみる。
「……拓真!」
ぐったりとした様子の青年が目に入り、焦燥が胸を突いた。
自分が気絶した後は一体何があったのか。最悪の可能性が頭を過ぎる。
「おい拓真、ここが異世界なのは認めるから、起きろ。起きてくれ。頼むからこんなぶっ飛んだアウェー状態で俺を独りにするな」
拘束されたまま下半身を捻り、靴の踵で親友の腰辺りを何度か蹴る。
「お、き、ろ」
休むことなく蹴り続ける。
すると数十秒経った頃にいきなり拓真が覚醒した。
「――――はっ! パイナップルサワー! マンゴー・スティッキー・ライス!」
「……甘そうだな」
こっちは心臓喰われる夢を見たって言うのにそっちはカクテルとデザートとは、幸せな頭で結構なことだ。
なんて文句は言わずに、久也は安堵のため息を吐いた。
「よかった」
「!? それはおれの台詞だよ! 大丈夫? ぐちゃぐちゃにならなかった!?」
「最後の質問の意味が不明だが、とりあえず生きてる。お前こそ額から血が出てるけど、平気か」
「んん? 殴られて鎮静されたからかなー」
「なるほど」
何気なく明かされた事実から、久也は自分が気絶した後の状況を察した。拓真が暴れたので連中が殴った、という単純明快な顛末だったらしい。
他に怪我は無いのかと訊ねたら、何も無さそうだと返事が返った。
まだ考えてもわからないことがあるが、松明の灯りが前方から浮かび上がったのでそれどころではなくなった。
現れたのは三人。先頭を歩く中心の美女を見て、久也は生唾を呑みこんだ。銛を投げられ、夢の中でも心臓を喰われたのだから恐怖を覚えるのも仕方がない。
女は今度は全裸ではなく、胸と腰周りに何かの革を巻いていた。サンダルも履いている。
久也から一歩先の距離で立ち止まると、彼女は連れの二人を下がらせた。
「私の名はサリエラートゥ。『滝神(タキガミ)の巫女姫』だ。よければお前たちにも名乗って欲しい」
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