18.麻痺

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「くくっ、そう思うか――」  俄かに女の悲鳴が夜の空気を引き裂いた。  泣きながら巫女姫を呼ぶ、悲痛な声が繰り返される。それがユマロンガの声だと久也は遅れて気が付いた。 (異変があったみたいだ。怪我人かそれ以上か!?)  同じく気付いた拓真が振り返りたい衝動を堪えているのがわかる。槍を構える手が微かに震えていた。 「まあ、お前たちがそちら側に付きたいのならそれでもいいさ。いずれ人柱と一緒に回収しよう」  大袈裟に手を挙げて英が踵を返す。 「待っ――」  引き留める声をかけて前に出た拓真に、英の左右に控える北の民が弓矢を構えた。 「今日はもう私は疲れた。お前たちも諦めろ。さもなくば犠牲が増えるぞ」  振り返らずに英が告げる。 「そうするぜ。だからアンタも大人しく帰ってくれよ」  相手に見えないとわかっていながら、と久也はしっしっと手を振る。  そして拓真に小声で言った。 「深追いするな。あっちから引いてくれるなら好都合だ」 「う、ぐぐ……わかってるよ! 皆をほっとけないし!」  名残惜しそうに唇を噛んで、拓真は数歩後退った。  久也も一緒になって危険が去るのを確認した。 (毒……メリット……?)  高速で去り行く敵連中の後ろ姿を凝視しながら、久也は何かを掴みかけたような気がしていた。  が、すぐにその考えを捨てた。  人命救助が先である。 *  今の己にできることがあるとすれば、それは持つ限りの知識をひたすら漁り、知恵を絞ることなのだと朝霧久也は悟っていた。  目の前には生死の狭間を彷徨う男が二人。どちらも戦士で、アレバロロの舎弟らしい。一人は太腿に、一人は肩に毒矢を受けていた。毒が回ったのだろう、地面に横たわって喉からしきりに苦しげな呻き声を漏らしている。両目や鼻や口から透明な体液が次々溢れ出している。  それらを取り囲む一同には電撃よりも鋭い緊張が張っている。 「呼吸不全を起こしてる。毒の種類は何だ?」  思考をよりスムーズに整理する為に、久也はブツブツと呟き出した。 「私の神力(しんりき)では傷口を治すのが精一杯だ。呼吸が楽になれればと肺周りに当てることはできるが、原因を取り除かない限りは解決にならない。とりあえず洞窟に連れて行けば、身体が自然に毒を排するかもしれない!?」 「でも動かしていいの?」  サリエラートゥの苦し紛れの提案に拓真が疑問を投げかける。
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