6人が本棚に入れています
本棚に追加
「くくっ、そう思うか――」
俄かに女の悲鳴が夜の空気を引き裂いた。
泣きながら巫女姫を呼ぶ、悲痛な声が繰り返される。それがユマロンガの声だと久也は遅れて気が付いた。
(異変があったみたいだ。怪我人かそれ以上か!?)
同じく気付いた拓真が振り返りたい衝動を堪えているのがわかる。槍を構える手が微かに震えていた。
「まあ、お前たちがそちら側に付きたいのならそれでもいいさ。いずれ人柱と一緒に回収しよう」
大袈裟に手を挙げて英が踵を返す。
「待っ――」
引き留める声をかけて前に出た拓真に、英の左右に控える北の民が弓矢を構えた。
「今日はもう私は疲れた。お前たちも諦めろ。さもなくば犠牲が増えるぞ」
振り返らずに英が告げる。
「そうするぜ。だからアンタも大人しく帰ってくれよ」
相手に見えないとわかっていながら、と久也はしっしっと手を振る。
そして拓真に小声で言った。
「深追いするな。あっちから引いてくれるなら好都合だ」
「う、ぐぐ……わかってるよ! 皆をほっとけないし!」
名残惜しそうに唇を噛んで、拓真は数歩後退った。
久也も一緒になって危険が去るのを確認した。
(毒……メリット……?)
高速で去り行く敵連中の後ろ姿を凝視しながら、久也は何かを掴みかけたような気がしていた。
が、すぐにその考えを捨てた。
人命救助が先である。
*
今の己にできることがあるとすれば、それは持つ限りの知識をひたすら漁り、知恵を絞ることなのだと朝霧久也は悟っていた。
目の前には生死の狭間を彷徨う男が二人。どちらも戦士で、アレバロロの舎弟らしい。一人は太腿に、一人は肩に毒矢を受けていた。毒が回ったのだろう、地面に横たわって喉からしきりに苦しげな呻き声を漏らしている。両目や鼻や口から透明な体液が次々溢れ出している。
それらを取り囲む一同には電撃よりも鋭い緊張が張っている。
「呼吸不全を起こしてる。毒の種類は何だ?」
思考をよりスムーズに整理する為に、久也はブツブツと呟き出した。
「私の神力(しんりき)では傷口を治すのが精一杯だ。呼吸が楽になれればと肺周りに当てることはできるが、原因を取り除かない限りは解決にならない。とりあえず洞窟に連れて行けば、身体が自然に毒を排するかもしれない!?」
「でも動かしていいの?」
サリエラートゥの苦し紛れの提案に拓真が疑問を投げかける。
最初のコメントを投稿しよう!