19.社交的に生きるのが本質

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「…………マラリアだったりして」  返ってきた視線は虚ろに湿っていた。背中は寝汗がべっとりとついていて熱っぽい。  蚊対策には気をつけていたのだが、それでも刺されることはあった。マラリアにかかる可能性は十分にある。真面目に心配になってきた。 「サリー呼ぼうか」  症状の緩和には神力が一番だ。拓真は巫女姫サリエラートゥが住まう家がある、台地の中心の方へチラッと目をやった。 「いいよ。アイツ、日が昇るまで起きないだろ。自力で洞窟まで行って――」 「だったらおれ背負って行くよ」 「それは……パス」 「じゃあ休んでなよ。日が昇ったら速攻でサリー呼んで来るから」  結局そういうことに落ち着いて、二人は家の前のベンチまで歩いた。ベンチの上で久也は横になった。 「悪いな。片付けはしとくから――」 「いいっていいって。適当に埋めときゃいいでしょ」 「……変な気分だな。うちでは大体体調崩すのは朱音や母さんで、世話をしてたのは俺だったのに」 「そんなこともあるよー」  そう言って、拓真は木製のシャベルを取った。吐瀉物の量はそんなに多くないので、埋めるにしても大して時間はかからなかった。片付けも終われば拓真はベンチの前の草に腰を下ろした。  久也は眠ってはいないらしく、半分だけ目が開いている。  台地の上から見下ろせる景色はまだ薄暗い。遠くから鳥の鳴き声が響いた。カラス系かな、と拓真はぼんやり考える。  早朝なせいか思考回路は割と静かなものだ。数分経ってやっと拓真は口を開いた。 「なんかさ、ばあちゃんが作る牛丼が無性に食べたいんだけどどうしよう」  半ば独り言だったが、返事が返った。 「朝から牛丼かよ。まあ、俺も朱音のしじみ味噌汁が恋しい……今はどうせすぐ吐き出すにしてもだ」 「あはは。確かに朱音ちゃんのしじみ料理って、ふわっと優しい味が良いよね」  朝霧朱音の料理にはほとんど外れが無い。本人のふわっと優しい性格をそのまま表していたかのようで、いくらでもおかわりができた。もう味わうことはできないのだろうか、とふとしんみりと思った。 「帰りたいなぁ」 「…………そうだな」  無意識に目頭が熱くなった。 「おれらっていつ死ぬんだろう」 「明日かもしれないし、数年後か数十年後かもしれないな」 「日本でもそれは同じだったはずなのに、時々たまらなく怖く感じるのは何でだろ」
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