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会いたくない。でも会いたい。
もう何時間もせめぎ合っている気持ちにため息を吐きながら、荷物を取り出したロッカーの扉を閉めた。
「もう時間がないんだよな……」
すると、早鳴り出した鼓動にきゅっと拳を握る。
今日はバレンタイン。甘く幸せな雰囲気に街が包まれる中、俺の心は複雑だった。
セフレから恋人になった鈴宮 聖に会えないからじゃない。
それどころか、信じられないことにデートの約束をしていて、あと十分くらいしたら聖が店に迎えに来てくれる話になっていた。
まだセフレだった去年を入れて、聖とバレンタインを過ごすのは初めてだ。
聖はバーテンの仕事があったし、俺は夜からはフリーだったけど、なによりバレンタインっていう甘い日を聖と過ごしたくなかった。
結局は俺の勘違いだったのだが、バレンタインを一緒に過ごしたって、伝えられない想いを強く感じて惨めになるのは分かりきっていた。
なによりチョコなんてやったら聖への好意がバレてしまいそうで、それにセフレからのチョコなんて重たいかもしれないと考えたら臆病になり、到底チョコをあげる気持ちにならなかったのだ。
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