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「彼女欲しい」
「…またその話?」
魚臭い個室でイワシに包丁を入れながら原くんが呟く。
私はそれをバケツに分けながら測量していく。
「大澤」
「なに」
「俺たち、付き合う?」
「ばかじゃないの」
入社して五年。
同期の原くんは毎日のように愚痴をこぼす。
彼は決してモテないタイプではないと思うのに、社会人になってから一向に彼女が出来ないらしい。
「ショー付きの海獣担当ならモテたかもしれないのにね」
イルカ担当のモテ男を引き合いに出してやると、原くんは困ったように笑った。
「じゃあさ、合コン開いてくれない?3×3くらいで」
「いいけど」
「え。いいの?」
原くんが驚きに目を見張る。
動揺しているのか、魚を捌く手が止まった。
私はそれに気付かない振りをして、バケツを持って部屋を出た。
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