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――彼の言うとおり、ここは私の世界とは違う世界。
技術はあるものの、歴史の操作を防ぐ為、法律で過去に行くことは固く禁じられている。
だから合法のT-Mが蔓延した。
複数の出来事を混ぜ、正規の過去ではない過去を生み出して遊び感覚で覗く、それがT-M。
…ここで倒れている彼は、実在の人物であり、T-Mによって作られた人物でもある。
苦しいのか、彼はネクタイを緩めながら息を吐いた。
「お前の世界はどうだ。平和か」
「…平和だけど、幸せじゃない」
「努力をしたか」
努力だなんてそんな廃れた言葉、使う人すらいない。
だから私は熱い信念を持つこの世界に惹かれ始めていたんだ。
「ごめんなさい」
気付けば泣きながら謝っていた。
リミクサーを使って巻き込んでしまった事より、自分自身が…夢も希望もない自分の世界が情けなくて。
「…私、ママと上手くいってなくて…それで逃げ出してきたの」
彼は真っ直ぐに私を見た。
「目先のことに鈍感になれ。失うことを恐れてはしがらみから抜けられない。しかし捨て身で臨めば何でもできる」
「…何、急に」
「…忘れるな。それが、お前がここで過ごした意味…偉勲となる」
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