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不意に強い風が吹いてハヤトの手から傘を飛ばした。ハヤトは傘を追うこともせず、ただ天を見上げた。彼の顔を雨が打ちつけていく。
『なんで今日?』
ぽつりと漏れた言葉。ハヤトは振り返ると右腕を振り上げ壁に叩きつけた。押し寄せてくる後悔がのしかかっているかのように彼の頭は少しずつ下がっていく。ハヤトは涙を堪えるように額を壁に押しあてた。
ずるずると崩れ落ちた彼は壁を背にしてしゃがみ込んだ。そしてもう一度天を見上げる。彼の顔にぽつりぽつりと雨の雫が落ちていく。それはまるで涙のように彼の頬を濡らしていった。
どれだけ時間が経っていただろう。ハヤトは思った。自分が彼女を待たせた時間はこんなものではなかったと…彼女はずっとこんなにも寂しい想いを胸に抱えていた。それに気づいてあげられなかった自分に腹立ちすら感じていた。
『やっぱり、今日で良かったよ。こんな日に待たせていたら…君は雨にも涙にも濡れていたかもしれないから…』
そう呟いたハヤトの頬を涙が零れ落ちていった。
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