第2章

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彼女が歩くたびにかつんかつんとヒールの音が響きわたる。その音を聞きながらリュウトは願っていた。この音が止まって彼女が振り返ってくれることを… だがヒールの音はどんどんと離れていく。規則正しく奏でられるヒールの音にリュウトは悟った。彼女が振り返ることは、もうないのだと… リュウトは彼女とは逆の方向に歩みを進めた。行く先を違えた二人はもう交わることはない。それが分かっていたから… リュウトは新鋭のデザイナー。シンプルなデザインながら、随所に見せる彼のこだわりが認められ一躍人気を博した。 がむしゃらにその道を進む彼に恋する暇などなかった。だがそんな彼が一目で惹かれたのが彼女だった。大勢いるモデルの中で彼女を見た時だけデザインが浮かんだ。彼女にこんな服を着てほしい。それを形にしてくことが彼にとっての幸せであり生き甲斐になっていた。そして彼女もまた真摯な彼の想いを受け入れてくれた。
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