第2章

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ユウタは傘を片手にある場所に向かっていた。もう片方の手で大事そうに花束を抱えている。それは彼女の好きな花。そして今日は彼女の誕生日だった。 『少し距離を置きたいの』 一か月前、彼女にそう言われたユウタはこの日を心待ちにしていた。彼女の好きな花を贈って、もう一度やり直したいと伝えるために… 強くなる雨が傘からはみだした肩を濡らしていく。だがユウタはそんなことは気にならなかった。早く彼女に会いたい。その想いが彼の足を速める。 通い慣れたこの道を通るのは一か月ぶりだ。ユウタはいつものようにアパルトマンの非常階段を上っていった。 『どうしてエレベーターを使わないの?』 彼女によく聞かれた。だがユウタはいつも笑いながらこう答えた。 『こっちの方がオフィスから近いからね』 目尻を下げて見つめると、彼女は嬉しそうに伸び上って彼の首に手を回した。ユウタはそんな彼女の仕草が好きだった。
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