第2章

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彼女の部屋の一つ上の階は今使われていない。一階分を貸し切っていた住人が出ていってから人を入れていないらしい。 『大家さんはもう歳だから、そんなに気にしてないのかもね』 そんなことを話していたのを思い出しながら携帯を取り出したユウタは彼女に電話を掛けた。 『いつものとこにいるんだ。出て来れないかな』 ユウタはそれだけ言って電話を切った。少ししてゆっくりと階段を上がってくる彼女の姿が見えた。 『ユウタ…』 彼女はユウタの前で立ち止まる。ユウタは一歩近づくと彼女に花束を差し出した。 『誕生日おめでとう』 花束を受け取った彼女は真直ぐに自分を見つめるユウタから目を逸らすように俯いた。 『ごめん、受け取れない』 彼女はそう言うと俯いたまま彼に花束を返した。返された花束に視線を落としたユウタは力が抜けたように腕を降ろす。 『部屋で待ってる人がいるの』 彼女はそう言うとユウタに背を向けた。そして来た時とは違う足取りで階段を下りていく。その姿を黙って見送るユウタ。彼は今になって気がついた。距離を置きたいと言った時に彼女の中では終わっていたのだと…
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