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警護対象者の居るスイートルームにまで伝わってきた振動と、小さく聞こえてきた外界の騒々しさに眉をひそめてホテル館内から通りに出た時、800メートル近く離れた交差点の片側から灰色の煙と埃が大量に吹き出すのが見えた。
爆発と建造物が瓦礫と化す轟音の合間に、光線兵器特有のノイズが聞こえる。
2:35p.m.
右手首の時計に目を遣ったのは、癖のようなものだ。
『任務中だぞ、持ち場に戻れ!』
イヤホン越しにカミナリが落ちたのはすぐだった。
左の街灯傍で空中を漂うフリスビー型の浮遊体をちらりと見て、
「十分だけジウにシフトしたわ。ファーレンハイト、位置はもっと上がいい。目立つ」
『ハイ、ニキータ』
『全く、このガキ――』
頭上の監視用ロボットを経由している上司の舌打ちにニキータは頬を緩め、運悪く交差点を左折してやって来る相手を見据えた。
車が潰れる音を背に逃げ惑い、悲鳴を上げて押し寄せる雑踏の中で、静かに口を開く。
「状況。標的はJATSu(独立型単座機甲ユニット)、トリポッド一体。目視確認できないけど、操縦者が居る模様」
『そうだろうな』
ため息混じりの声が答えた。
『情報が入ってきた――こいつは別ルートで逃走中の仲間と5ブロック先の銀行を襲った帰りだ。興奮気味らしいから、やるなら気ィ抜くなよ』
「ありがとう、隊長」
埃を上げて直進を始めた車体の脇で蠢く一門の筒状のものと操縦席から青い瞳を逸らさず、腰のホルスターに差した相棒“リブラ”を引き抜いて両手に構える。
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