アストライアの天秤

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黒みがかったガラスに覆われた操縦席の中は明瞭でない。 僅かに光を放つ鈍色のボディは、剛性の高いα―ルファ合金とみていた。一部民間にも流通する、量産型機甲ユニット主流の素材だ。 戦闘機のキャノピーに似た曲線を描く三脚の相手に、暴れる場所が悪かったのよと頭の中で言い聞かせる。 少なくとも、私が居ない別の街ならよかったのに。 距離が200まで狭まった頃、相手も路上のニキータに気づいた――びたりと自分に照準を合わせたレーザー出力砲と操縦席に銃口を向けて、呟く。 「安らかに」 振動ノイズを伴った赤橙色の光が黒い耐刃熱スーツの脇を掠めた瞬間、二梃から発された青い光は迷いなく砲身と車体、操縦者の胸を貫いていた。 直進を続けたトリポッドの速度が落ちていく。 硬い音を立てて前輪のフェンダーに乗った靴の爪先。 重々しく車体が停まり、緩い風がニキータの黒髪をなぶって過ぎても、青い瞳と銃口は至近距離となった操縦席にポイントされたままだ。 『車両ノ制御システムニ同調シマシタ、ハッチ開放シマス』 上へ開いていくハッチを見守る間、レンズ横の緑色ランプを点滅させるファーレンハイトから音声が流れた。 『当局の担当者が間もなく到着するそうだ。聴取するからそこで待てと』 「時間だわ。任務に戻ります」 胸に赤黒い染みを作って座席にもたれた男の顔を一瞥し、ニキータは足早にホテルに戻った。
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