第2章 拓と澪

2/14
前へ
/50ページ
次へ
≪‥‥‥で? そのションベン臭せぇガキさぁ、 いつまでココに居ンの? テメェの餌代も侭ならねェってぇのにョ…≫ <気に入らないンだったら拓が出てけよ。 此処は元々俺の根城なんだし‥> ≪チッ‥≫と舌打ちして、 拓はビールのアルミ缶を捻り潰した。 アパートに帰り着いてからというもの、 澪はずっと俺の背後に張り付いて、片時も俺から離れようとしない。 拓を警戒してか、声を掛けられても決して目を合わそうとはしなかった。 拓にはそれが益々面白くなかった。 ≪クソガキ‥≫ 拓は拗ねたようにテレビに向かって毒づいた。 <風呂湧いたけど‥ひとりで入れるか?> 〈‥‥‥〉 黙りこくって爪を噛み、澪の視線は空を漂うばかり。 <そぉ‥じゃ、しょうがない‥> 澪の服を脱がせ、抱き上げた。 埃と汗の混じる甘ったるい澪の匂いに、 心なしか胸高鳴る自分が妙に思えた。 浴室に入ってからも、澪はゼンマイの切れた人形のようで、いっこうに動く気配がない。 <次、ソッチの足‥‥痛くないか? ‥‥‥ッコラショと‥ココ掴まってな… あ‥肘‥ちょっち‥擦りむいてンよ… ・・・・・ 今度はシャンプーね‥‥‥コッチ向いてみ… どぉ?‥熱くない?> 大の男が嬉々としてお人形ゴッコかよ‥フン‥ 応えのない澪に向かっていちいち言葉をかける自分に笑える。 澪は俺の手でピカピカに磨きあげた。 まるで極上のビスクドールじゃないか?! 息をのむ、 抜けるように透明な白の肌…。 スモーキーアッシュの髪から滴る雫が、 珠になって素肌の上をキラキラ転がる。 やはり澪は、どこか遠い異国の血を継いでいるに違いなかった。 瞳は美しい灰褐色のガラス玉… 長い睫に水滴が伝い、人形は顔を歪めた。 <ほら、だから目を瞑れって言ったろ‥> シャワーを充ててやると、 子犬のように首を振って俺の方を振り返り、 エヘヘ‥と笑った。 澪に漸く魂が還ってきた。 <フフ‥ヨーシ! どーよ♪サッパリしたろ? ・・・・・・・・・・・ ・・・・つか‥‥カワイイなぁ‥おまえ…> 俺は澪に手を添え、バスタブに迎え入れた。 狭いバスタブの中、 俺の膝の上で澪はタオルを弄んだ。 これ迄のことをボンヤリ思い返していると、 澪の手を離れたタオルが湯船をユラユラとたゆたうのに気づいた。 疲れてたンだな… 澪はウトウトと微睡んでいた。 <‥ットト…危ねっ‥‥溺れちまぅ‥> 抱き留めた澪の背中越しに、顔を仰向かせたその時… ≪えええぇ~なんかヤラしぃ~い‥♪≫ 扉に凭れヘラヘラと此方を眺める拓がいた。 <‥ドア、閉めろよ…風邪ひくだろ‥> ≪ぉひょ~☆ナルホドねー! 男にしとくにゃもったいねぇ激マブッ☆ こいつぁ、クラブのアバズレなんかよか、 全然勃つってモンだゼ♪ ヘヘ‥もしかしてお前等、 ソーユーカンケーなワケ?(笑)≫ <用がねェなら出てけって!> ≪ヤったの?せっくすうぅ‥☆ お前がこのお嬢さんにブッ込むワケ? アレ?逆? あんな狭いトコ入んのかよ(笑) なぁ、どーなんだよぉ‥真ぁォ‥≫ バッシャッ!!!☆ ≪ぶわっ!★ばっ!!! ナニしやがンっ‥‥ッテメェ‥!!≫ 俺は拓の顔めがけ、バスタブの湯をおもいっきり浴びせ掛けた。 <ぁあ゛っ!? ブッ込ンだがナンだって!? オメーみてェなヤリチンと一緒にすンじゃネェよ‥クソがっ…!>
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加