第1章 相棒

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《‥ったくもー…あんたンとこのボスは手加減ってモンも知らねぇのかよ…。 今夜はウチに泊まんな‥化膿して熱でも出たら‥》 <断るっ! 彩花の隣なんかで寝れるかよ、 問答無用で乗っかってくンじゃん…傷が悪化するワ…> 《バーカ、怪我人相手に欲情する程不自由してねぇっつーのっ!》 彩花の店は、その昔チャブ屋とよばれた私娼家で現在の歓楽街を外れた旧私娼窟の一角にある。 表向きは小洒落たショットバー…。 カウンターに常時2・3名の女の子がいて、客と気が合えば二階の部屋で宜しくやるってワケ。 在日コリアンの血を引く美人で面倒見の好い彩花は、この界隈ではナニかと顔が利く。 女と博打と喧嘩が生き甲斐というやさぐれた港湾労働者や、外国船籍の船乗りに基地駐留ヤンキーといった危なっかしい連中も、 港を出入りする男たちならどんな輩であろうと、スラングな英語で実に巧くやりこなす。 しかし、彩花自身が客を取る事はまず滅多にない。 彼女の脚は歪に変形していた。 幼少期に実の母親から受けた虐待によるものだ。 いつも場違いなフォーマルなロングドレスを身に纏って脚を隠しているのだが、 それが彼女の佇まいに“ある趣の風格”みたいなものを与えていた。 …曰く‥‥ 不具を理由に安く買い叩かれるのが癪なので、そのテの嗜好‥敢えて大枚を積んで臨むイワユル『変態』としか致さない‥‥のだそうだ。 おかげで“幻の床上手”と噂され、箔が付いて好都合…とのこと。 普段の彼女は、レジを預かりつつ客と女のコを取り持つ仕切り番頭‥イヤ‥遣り手婆ぁってとこか(笑)。 俺達三人は、丘をひとつ隔てた隣街の、児童養護施設で育った。 拓を男にしたのが、年長の彩花である。 俺は拓の2コ歳下。 まだ精通もないガキの頃、 早熟な彼等は何の前触れもなしに俺の昼寝の横でおっぱじめた。 目を覚ましたオレは恐怖の既視感に襲われ嘔吐した。 その光景は、荒んだ家庭内にありがちな惨たらしい暴力の記憶とシンクロし、洟垂れ小僧の自分には耐え難かったからだ。 思春期には、何を思ってか俺の寝床に彩花がやってきて、しつこく弄られたことがある。 しかし姉弟然として育った間柄では、反応はしてもそんな気になれるわけがない。 彩花に散々なじられた挙げ句、僅かな小遣いまで巻き上げられた。 そんな具合だから、エロなんてものはオレにとって、暴力と同様‥忌まわしいトラウマでしかない。 それ以降、 どんなイイ女に誘惑されようと、 どんな熟練の手練手管を施そうと、 俺がエレクトすることはなくなった。 施設を出てからの拓は、 殆ど彩花の紐みたいなもんだった。 そんな拓がある日、 高校を出て整備士として働き始めていた俺のアパートに転がり込んできた。 ずるずると居座る拓が持ち込む様々なトラブルに付き合わされてるうち、 俺は工場をクビになり、 いつの間にやらこうして半端なチンピラに成り果てていた。 <…フゥ‥、ご馳走さん☆旨かったよ… ‥‥いつも悪いナ…じゃ‥俺、帰るヮ‥> 《拓にも持ってきな‥毒入れといた(笑)》 そう言って、バゲットとチキンを包んでくれた。 <お‥サンキュ♪> 《…ねぇ、真生‥‥ アンタさ‥お金困ってンなら “ウリ”の方、どーよ? ナンならウチの客、回すけど‥》
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